25日に訃報(死去は3月31日)が流れた名優・山本圭さん(享年81)には放送されなかった「名作」ドラマがあった――。

 映画やテレビ、舞台で名を刻んだ山本さん。ドラマでは「若者たち」をはじめ、「天地人」「ひとつ屋根の下」「白線流し」といった代表作が紹介された中、挙げられなかったのが主演作「ひとりっ子」だ。

 RKB毎日放送が制作した同ドラマは、1962年にTBS系「日曜劇場」枠で放送予定だったが、見送られた。ウェブサイト「テレビドラマデータベース」には「東芝日曜劇場(欠番)」と表記されている。

 山本さんが演じた主人公の進路を巡る物語。防衛大に合格したが、「自衛隊」につながる選択に反対意見も受けて悩んだ末、防大入学をやめる。62年といえば核戦争寸前までいったキューバ危機が生じ、米ソ緊張が高まった。日本でも防衛計画の策定が進む一方、戦後まだ十数年の当時、自衛隊への反対論も根強かった。

 ドラマの〝お蔵入り〟については、自衛隊への賛否というタブーに触れた可能性などが取りざたされた。「右翼や政治家の圧力」「スポンサーや局の事情」という言葉も語られた。

 芸術祭参加作品として制作されたドラマは、記者会賞を受賞。市民上映会などで人々の目に触れてきたが、山本さんの死去に際しても、SNSでは話題になっていない。まさに「知る人ぞ…」の作品のようだ。