駅は停電、道路には水があふれた…。東京都足立区と埼玉県川口市などで震度5強を観測した、7日午後10時41分ごろ発生の地震は首都圏のインフラに大きなダメージを与えた。震源地は千葉県北西部で震源の深さは約75キロ。地震の規模はマグニチュード(M)5.9と推定される。東京23区で震度5強以上を観測するのは、2011年3月11日の東日本大震災以来。専門家が今回の地震から得られる教訓を解説した。

 この地震の影響で、足立区の日暮里・舎人ライナー舎人駅付近を走行中だった電車が脱線し、全線で運転を見合わせている(8日午前現在)。首都圏では、道路の水道管の破裂や火災、エレベーターに人が閉じ込められるなどの被害が多数発生した。

 今回の地震と似ているのが2005年の千葉県北西部地震だ。震源の深さは約73キロで、足立区で震度5強を観測し、首都圏の広い範囲で震度5弱の揺れが生じた。この地域を震源とするM6前後の地震は約25年周期で起きている。05年の前は1980年、1956年、1928年…。気象庁は「過去の事例では、1週間程度の間に同程度の地震が発生した事例は1、2割程度ある」として注意を呼び掛けた。確率としては低いわけだ。

 防災危機管理アドバイザーの古本尚樹氏も「おそらくこの後、ここを震源としたM5・9より大きな余震は起こらないと考えます」と語る。

 しかし、今後、心配されるのは、今回の震源とは別の巨大地震。1703年(元禄地震)と1923年(関東大震災)に南関東でM8クラスの地震が起きた。周期的に発生するなら、約220年周期のため、次に起こるのは43年前後となる。

 また、南関東ではM8クラスの間にM7クラスの地震が多数、周期的に発生している。文部科学省の地震調査研究推進本部では12年に「M7クラスの首都直下地震が30年以内に起きる確率は70%程度」と予測していた。それから10年近く経過した。つまり、今後20年以内にM7クラスの首都直下地震が起きてもおかしくないわけだ。

 古本氏は「この2週間を見ると、南の宮崎・鹿児島でM5・5(6日、両県で震度4)、北の青森でM5・9(6日、震度5強)、そして今回は真ん中の首都圏で起きました。日本全体の地殻が活発な動きをしている変動期に入っていると考えられます。首都直下地震や南海トラフ地震などに注意しておく必要があるでしょう」と指摘する。

 今回の地震によって首都圏のインフラの弱さが浮き彫りになった。

 東京電力パワーグリッドによると、7日午後11時すぎ時点で東京都新宿区の約250軒で一時停電となった。JR品川駅でも停電が起きた。東京都水道局によると、23区内では漏水や断水の通報が多数寄せられた。千葉県市原市では、川にかかる水道管から水が激しく噴出。JRでは8日朝、入場制限で大混乱の駅もみられた。

「コロナ禍の上、深夜で、公共交通機関の利用者が少なかったはずなのに、大量の帰宅困難者が発生しました。タクシーに乗るために列に並ぶにも、臨時電車再開などを想定して駅近くにとどまるにしても、今回は駅周辺に大量の滞留者があふれました。首都圏でコロナ禍前の普通の生活に戻った時には、もっと多くの滞留者および帰宅困難者が出ます。今回を機に、役所は帰宅困難者のための一時避難所をしっかりと設置しておく必要があります」(古本氏)

 また、地震の二次災害で恐ろしいのは津波と火事。今回、津波は起きなかったが…。

 古本氏は「震度5強だったので、火事が起きてもすぐ鎮火できました。しかし、首都圏、特に家屋が密集している東京の下町は道路が狭く、消防車が入れないため、震度6の地震が起きると、大規模な延焼が発生してしまいます。震度5と6ではまったく火事の被害が変わってきます」。

 岸田文雄新政権には、巨大地震への速やかな備えが求められるところだ。