「水痘(水ぼうそう)並み」の感染力を持つデルタ株の前に、新型コロナウイルスの感染が急拡大している。従来の緊急事態宣言ではもはや効果が期待できないとあって、全国知事会や政治家、識者の間からは、海外のような制限が厳しい「ロックダウン(都市封鎖)」を検討すべきとの声も大きくなってきた。そのロックダウンだが、どのような私権制限が行われるのか。

 1日に行われた全国知事会は急拡大する新型コロナウイルスへの対応として、都道府県をまたぐ旅行や帰省の原則中止を国民に呼びかけた。国への緊急提言には外出を厳しく制限するロックダウンの手法を検討するよう盛り込んだ。

 これを受け、自民党の下村博文政調会長は、目の前の新型コロナ対応や経済対策が重要との考えを示した上で、「今後を考えると、しっかりした法律改正も国会で積極的に議論すべきだ」と語った。一方で、加藤勝信官房長官は現行制度上は「日本ではできない。大きな私権の制限になる」と慎重な姿勢を示した。

 度重なる緊急事態宣言への“慣れ”や、発令しながらも東京五輪が開催されているという整合性のなさからか、感染者は増える一方。もはや打つ手なしといった状況を打開する最後の切り札として取りざたされ始めたのがロックダウンだ。海外ではどのような制限が行われているのか。

 まずは、新型コロナウイルスの震源地・中国だ。2019年12月に武漢市で新型コロナが発見され、同市で20年1月から4月までの約3か月間、世界初のロックダウンが行われた。共産主義の中国では、1000万人規模の都市でも平気で封鎖してしまう。

 住民は自宅待機を命じられ、住民全員にPCR検査を実施。感染者を徹底的に囲い込み、外出者にはスマホのアプリを使った行動追跡が行われた。さらに、陽性が確認されると隔離され行動が公表される。自由主義圏から見ればプライバシー無視にも程があるが、体制への恐怖心もあってか、意外にも国民の反発は少ないという。

 マレーシアでもロックダウンが行われ、国が必要不可欠と認めた以外のすべての経済活動がストップ。中国同様、外出は厳しく制限され、個人が一連のルールに違反すれば1万リンギッド(約26万円)の罰金が科される。しかし、封鎖が長期間に及んだことで生活困窮者だけでなく、ロックダウン慣れも増え、制限破りが多発。結果として感染拡大も抑え込めず、政権に対する批判の声が高まっている。

 一方で、英国は昨年3月と11月、さらに今年1月からの3回、イングランド全土でロックダウンを実施し、不要不急の外出を制限した。合理的な理由なく外出すれば、初犯で200ポンド(約3万円)、さらに違反を繰り返せば最大6400ポンド(約97万円)まで増える罰金が科された。だが、ワクチン接種が進み、感染者数が減少したことで、3月から段階的に規制を緩和。7月19日に法的規制の大半を解除した。解除により感染は再び増加傾向にある。

 ほかにも各国でロックダウンが行われているが、見えてくるのは緊急事態宣言同様、一時的に陽性者は減るが、コロナはなくならないということだ。

 医療法人理事の経歴を持ち、日本安全保障・危機管理学会でインテリジェンス部会長などを務めてきた疫学事情に精通する北芝健氏はこう指摘する。

「緊急事態宣言で『お願いですよ』と言いながら、羊のように従順な国民性を持つ日本人は素直に受け入れてきた。海外から見れば強制と変わらず“日本式ロックダウン”をすでにやっている。『打つ手がないから』と為政者がエビデンスをきちんと示さずにロックダウンという強制措置をとれば、後世に禍根を残すことになるだろう。緊急事態宣言と同様の効果しか得られないだろうし、ロックダウンは日本にはそぐわないと思いますよ」

 果たして政府はロックダウンまで踏み込むのか…。