東京五輪開幕までいよいよ1週間となった。新型コロナウイルスの感染は拡大傾向のまま五輪本番に突入する。この状況には災害医療の専門家も大きな関心を寄せており、大きく3つのリスクが存在すると指摘。結果として、感染拡大につながれば、“あの大国”の思惑にまんまとハマりかねないと不安視した。

 菅義偉首相や東京都の小池百合子知事は「安心安全な五輪」を掲げているが、開催地である東京の15日の新型コロナウイルスの新規感染者は1308人と、前の週の同じ曜日を上回るのは26日連続となった。

 一方、西村康稔経済再生担当相は15日、新型コロナに関する参院内閣委員会の閉会中審査で、酒類提供停止要請に応じない飲食店を巡る政策の混乱を謝罪。酒類販売事業者向け支援金の給付要件として、酒類提供をやめない飲食店との取引停止を求める都道府県向けの文書は内閣官房の発案だったが、西村氏は作成の具体的な過程は「答えられない」とし、発出は「最終的には私の責任で行った」と述べた。辞任は改めて否定した。

 政府、都のコロナ対策は混乱の極み。専門家からは8月半ばに2400人を超えるとの試算も出ており、感染拡大のまま本番に突入しそうだ。

 医学博士で防災・危機管理アドバイザーの古本尚樹氏はかねて五輪を契機に爆発的に感染が拡大する可能性を指摘してきたが、開幕が近づいてきた今、こう語る。

「新型コロナという感染症が目に見えて拡大している中で本番に突入するというのは五輪の長い歴史の中でも初めて。五輪など不特定多数の人が集まる大規模イベントのことを、防災や災害医療の面では『マスギャザリング』と言うのですが、非安心と不安全の中で成立するか。どういう結果になるか。僕自身も関心があるし、学術的にも貴重な例になる。良くも悪くも、前例として後世に伝えられる五輪になる」

 マスギャザリングとは、日本集団災害医学会では「一定期間、限定された地域において、同一目的で集合した多人数の集団」と定義。マスギャザリングの観点から見ると、東京五輪は3つのリスクが存在するという。

「一つは各国のコロナ基準が一定ではなく、参加者や関係者の意識も異なっていることです。世界では性善説に基づくような感染対策は意味がないと思われており、いくら政府関係者が『安心安全』と言っても、何に対して言っているのかよく分からない。一方で、せっかく五輪で日本に来たんだからと、選手・関係者が缶詰めになってくれるとも限らない。無観客とはいっても、選手村に人は集まるし、そこから一般市民への感染が増加する可能性がある」(同)

 次に古本氏が指摘するのは、コロナが“バイオテロ”を助長しかねないという点だ。

「国内外を含め、開催反対、マスク着用反対など反対派勢力が多い。私の住む札幌市でも、ノーマスクの集団が北海道庁や市役所に押しかけ、ワクチン接種反対とマスク着用反対を訴えた。その後、対応した職員にデルタ株の感染が明らかになるケースがあった。五輪でも意図的にこうしたことが起こりえる」

 3つ目は自然災害対策。夏の日本ではゲリラ豪雨や台風が懸念されるし、首都直下地震も否定できない。
「外国人は言語の問題もあるし、地理的にも不慣れ。『安全安心』に関わる避難行動で不利な環境に置かれる。宗教上の配慮が必要な国から来る選手も多く、避難所の運営は特に注意が必要です」(同)

 こうしたリスクを抱えながらの開催の裏には、来年の北京冬季五輪に先んじて「コロナに打ち勝った証明」として、東京五輪をアピールする政府の思惑も見え隠れする。

 だが、古本氏は「もし、『東京五輪をやったから世界中に感染が広がった』という結果になれば、逆に『北京は安全安心で良かったね』となりかねない。日本で一度やっておいた方が中国は対比しやすいですからね。中国の思惑にまんまとハマることにならなければいいですが」と危惧する。

 開催が無事に終わることを願うばかりだ。