三重県鈴鹿市の交差点で2月、鉄製の歩行者用信号柱が倒れる事故があり、県警は、犬の尿が繰り返し掛けられたことで柱の根元の腐食が進んだ可能性が高いとする調査結果を13日までにまとめた。現場周辺は犬の散歩コースとなっており、複数の犬が同じ信号柱に尿を掛けていたという。幸い、けが人はなかったが、万が一のことを考えると危険な事故だ。犬の散歩で飼い主はどのようなことに気を付けると良いのか。専門家は犬の本能的な習性を理解する必要があると指摘する。

 県警によると、2月18日未明、鈴鹿市桜島町の交差点にある高さ約6・5メートルの信号柱が倒れた。けが人はなく、近くのブロック塀が損傷した。耐用年数は約50年だったが、設置されてから23年しか経過していなかった。

 県警科学捜査研究所(科捜研)が調べたところ、柱の根元から、同じ交差点にある別の信号柱に比べて約42倍の尿素が検出されたという。

 倒壊した後に新たに設置した信号柱に、複数の犬が散歩中に尿を掛けていることも判明。犬の尿に含まれる尿素や塩分が柱の腐食を早めた可能性が高いと分析した。

 県警交通規制課の三尾啓輔次長は「少しの尿でも、長年繰り返し掛けられると大きな影響を与えることが分かった。犬の飼い主はマナーを守って散歩してほしい」と呼び掛けた。

 同事故に対し「犬の糞尿で被害があるというのはウワサ話で聞いていたが、やっぱりか」と話すのは埼玉・戸田市内に在住する男性だ。この男性は自宅前にある街路灯の根元が腐食していることに気づき、「愛犬の大小御免」との注意文を書き込んだ。薬剤をまいて対策したこともあったというが、それでも尿を引っ掛けられるのは日常茶飯事だ。

「常識ある人はまだ小便した後に上から水をまいて、薄めているが、そのままだったり、注意すれば『うるせえ』と言う人もいる。芯までは見えないが、かなりさびている。もし家の方に倒れたら大変だし、怖い。損害賠償問題もどうなるのか。三重の事故を犬の飼い主さんたちはぜひ知ってほしい」と訴えた。

 犬と言えば、電柱や信号柱などに尿を掛けるイメージがあるが、そもそもなぜなのか。

 動物ジャーナリストの佐藤栄記氏は「犬や猫など、動物にとって尿をするということは自分の情報を他の動物と共有するという意味がある。特に電柱や信号柱などは散歩コースとなるフラットな道にポツンと目立つ形で建てられており、そこに尿を掛けることによって他の犬が匂いを感じやすくなるので多くの犬が信号柱に尿を掛けるのだと思う。また、尿を掛ける位置にも重要な意味があり、高い位置に掛けるとそれだけ体の大きな犬であることがアピールできる。自分を強く見せようと、逆立ちして尿を掛ける犬もいるほど」と説明する。

 散歩前に自宅で排泄させておくようなしつけを促す声もあるが、佐藤氏は「犬が本能的に行っていることなので、難しいのではないか。犬たちにとっては、外で尿をするということが重要なポイント。それをやめさせるのはあまりにも人間本位ではないか。人間がSNSを使って今日行った場所を共有する感覚と似ているんです。犬たちも自分の情報を他の犬や動物たちと共有したい」と指摘する。

 では、今回のような事故が起こらないためにはどうしたら良いのか。

「すべてを犬のせいにするのではなく、犬の飼い主はペットボトルに水を入れて持ち歩き、尿をした場所にかけて薄めるなどすることも有効。信号柱の建設会社も、定期的に耐久性に問題がないか確認することで、このような事故は防げるのではないか」(佐藤氏)

 動物の習性を理解し、工夫して飼育することが重要となりそうだ。