さいたま市大宮区のJR大宮駅前のビルにあるインターネットカフェに客の男が立てこもった事件で、埼玉県警は18日午後10時40分ごろ、男の身柄を確保、監禁容疑で現行犯逮捕した。人質になっていた20代女性店員も保護した。男は住所不定、無職の林一貴容疑者(40)で「間違いありません」と容疑を認めている。だが発生から逮捕まで実に32時間も要した“超長期戦”に、専門家からは疑問の声が上がっている。

 県警によると、現場の店は大宮区桜木町1丁目の「マンボープラス大宮西口店」で、ビルの6階と7階で営業。林容疑者は7階にある鍵付きで開口部のない、約3平方メートルの防音の個室ブースにこもった。何らかの方法で内側から扉が開かないようにし、インターホン越しに捜査員とやりとりしていた。金銭の要求はしていなかった。

 17日午前10時ごろ、1人で入店。午後2時20分ごろ、個室ブースに女性店員を呼び、そのまま出てこなくなった。店側がマスターキーで入室を試みたが扉が開かず、応答もないため、午後4時10分ごろ「女性店員が戻ってこない」と通報した。

 この個室ブースは、プライバシーを保つため鍵付き防音で開口部のない“密室”構造。悲鳴や助けを求める声が、室外に届かなかった可能性もある。県警は18日昼前、2人分の飲料水と軽食をブースに差し入れた。女性店員は捜査員の呼び掛けに応答していたという。林容疑者も捜査員の説得に応じていたため早期解決かと思われたが、予想に反して日をまたぎ、警察が到着してから30時間、女性が個室ブースに入ってからは実に32時間を超える“超長期戦”となった。

 捜査関係者によると、18日午後8時すぎから林容疑者の応答がなくなり、寝入ったとみられたことから突入し、身柄を確保した。人質の女性店員に目立ったけがはなかったという。ビルが立ち並ぶ繁華街の現場は、金曜夜でもあり、多くの人が集まり騒然。午後10時半ごろ、現場となったビル出入り口にブルーシートが掲げられると、一気に緊張が走った。捜査員に脇を固められた林容疑者がエレベーターを降り、大勢で掲げたシートで隠されながら警察車両へ。午後11時前に車両が現場を離れた。

 元警視庁刑事で犯罪ジャーナリストの北芝健氏は、「通常、立てこもり事件には何か目的や理由があるが、男から何も要求がないというのは理解できない」と林容疑者の行動の不可解さを指摘したうえで、埼玉県警の対応に疑問を呈した。

「粗暴犯事案に慣れている埼玉県警はいつでも突入できたはずなのに、どうしてこんなに時間がかかってしまったのか…。長期戦になるほど犯人が疲れて突入のチャンスはできるが、一方で人質の体力が奪われる。何よりストレスから犯人が不測の行動をとりかねないだけに長期戦は得策ではなかった。後世に残るグダグダ劇だ」

 埼玉県警によれば、林容疑者が立てこもった個室ブースは窓もなく完全に密閉された空間で、中の様子をうかがうのも難しかったという。

 北芝氏は「いかに密閉された空間とはいえ、特殊なファイバースコープを使えば中の様子は確認できたはず」と、“長期戦”にしてしまった埼玉県警の対応を厳しく指摘したが、一方で警察関係者からはこんな声も上がっている。

「たかだか3平方メートルの密室に立てこまれて、ここまで時間がかかるとは誰も思わなかった。ただ通常の立てこもり事件では犯人が人質から離れた隙を狙うのが定石。今回は逆に狭い密室だったことで人質から犯人が離れる瞬間がなく、突入のチャンスがなかった」

 都会のど真ん中の小さな密室で発生した立てこもり事件。ネットカフェの小さな密室という環境が、思わぬ“超長期戦”を招いたようだ。