目的は何だったのか? 東京都立川市のホテルで女性と男性従業員が刺され死傷した事件で、警視庁立川署捜査本部は2日、従業員への殺人未遂容疑で、東京都あきる野市の職業不詳の少年(19)を逮捕した。面識がないのに70回以上もメッタ刺しにするとは…。専門家に心理面を分析してもらった――。

 逮捕容疑は1日午後、立川市のホテルで従業員の男性(25)の腹部を包丁で刺し殺害しようとした疑い。男性は意識不明の重体。少年は「逃げるために刺した」と容疑を認めている。

 逮捕された少年は「人を殺す動画を見て刺激を受け、無理心中を撮影しようと思ったが、女性に断られけんかになった。自分も死ぬつもりだった」と供述。女性殺害もほのめかしている。

 犠牲となった女性は相模原市の守屋径さん(31)。司法解剖の結果、死因は失血死で刺し傷はなんと70か所に上った。胸の傷は深さ約18センチで心臓を貫通。ホテル内の防犯カメラには少年の後に女性が入室する姿が写っており、間もなくして女性は職場に「盗撮です。すぐ来てください」と電話していた。

 警視庁関係者は「少年はこのデリヘル店の利用は初めてとみられ、被害者と面識はないようだ。犯行は女性が入室して間もなく起き、金品目的でもない」とみている。

 それにしても70回もメッタ刺しにするとは、異様という他ない。しかも面識がない相手だ。少年は「無理心中の撮影を断られた」と供述しているが、そんな理由で女性を何度も刺せるものなのか?

 日米で連続殺人犯、大量殺人犯など数多くの凶悪犯と直接やりとりしてきた国際社会病理学者で、桐蔭横浜大学の阿部憲仁教授はこう語る。

「まだ情報が少なすぎるが、反動的な怒りであれば、顔面を少ない回数刺すなどして怒りを解放したことだろう。犯行後、土手をスクーターで走り、平然と『ツーリングをしている』と答えている点も、単なるカッとした衝動的な暴力的犯行ではないという印象を与える。そもそも純粋な盗撮目的だけであれば、バレたら、そのままカメラを持って逃げ去ることも可能だったはず」(同)

 怨恨でも衝動でもないとすれば、どのような可能性が考えられるのか。

「『盗撮』とは、一説には風俗業界内でのSOSを意味する隠語という話もある。少年が刃渡り20センチの包丁を恐らくは自分で持ち運んでいたという点と女性の胸を中心に70か所も刺しているという点が気になる。少年が刃物を見せたので、被害女性がSOSとして『盗撮』と店側に電話したのかもしれない」

 ホテルに入って10分後に店に連絡が入り、従業員が駆け付けるまでには、少なくとも5分以上かかった。

「少年は包丁を女性のところには放置せず、男性を腸に至るほど深く刺した後に包丁を放置していることから、男性を刺すことも想定していたと考えてまず間違いない。元から単なる性欲以外の目的を持っていた可能性も捨て切れない」(同)

 少年の狙いは最初から快楽殺人だったのか。
 
 阿部氏は「私が2年ほど文通した米国の死刑囚クレオファス・プリンスJr.は、幼い頃より母親に植え付けられた無意識の女性全体に対する怒りから、シャワーを浴びた直後など身動きのとりづらいタイミングを見計らい、女性の左胸を中心に50回近く刺して、6人を殺害している。今回の被害者はパンティーを身に着けた状態であったということからも、少年の性欲と暴力が融合していた可能性は捨てきれない」。

 ただ「連続殺人犯は殺人に至る前の段階で、不法侵入、窃盗、のぞきなどを行うことで他者の領域に侵入できる快感を覚えるケースが多いので、本当に〝盗撮〟だった可能性もなくはない」とも指摘した。