東京・大阪など9都道府県に出されている緊急事態宣言が1日、再度の延長期間に突入した。先月23日から発令中の沖縄県を含め、20日まで続く。宣言が1か月を超えた東京や大阪では、人流を抑制したことで新規感染者数は減少に向かっているが、経済活動を止めたことは別の弊害を生み出している。専門家からは緊急事態宣言について「矛盾を是正せよ」との声が上がった。

 緊急事態宣言の延長に突入する東京の31日の新規感染者数は260人で、300人を下回るのは4月5日以来。大阪も同98人で、100人を下回ったのは3月22日以来だ。

 大阪府の吉村洋文知事は報道陣に「感染の大きなヤマは抑えられている。宣言延長になるが、感染再拡大を防いで減少を確かなものにする。逼迫している医療体制を解消していくことが重要」と府民に20日までの協力を求めた。

 宣言の効果がジワリと出てきてはいるが、防災・危機管理アドバイザーで医学博士の古本尚樹氏は「宣言を出せば引き締まるといった対応で、やっていることは昨年からの繰り返し。検証を行っておらず中身がない。宣言下のエリアの住民が規制のない郊外へと移動して密を作っているといった問題も起きているのに対策もない」と指摘する。

 宣言延長で東京・大阪などの独自措置が一部緩和されたが、飲食店への時短営業や酒類提供の自粛などの要請は変わっておらず、支援内容にも大きな変化はない。

 古本氏は時短営業は現状、デメリットの方が多くなっているといい、「むしろ営業時間を長くして分散利用させるべき。深夜帯利用を促進して一日の流れを標準化させれば、ある程度、企業の雇用も守られる。時短一辺倒はアイデアがない」と営業時間延長を提案した。

 古本氏は緊急事態宣言の最大の問題点として、業種や業態により規制や受けられる支援に差があるのに、明確な説明がなされていないことを挙げる。
「支援の網から外れた経営者や従業員は、いつまでも状態が続くことで不満も出てくるし、『生活できないから自殺しなきゃならない』といった健康問題にもつながってくる。第1波の時とは違う状況になっているし、こうした矛盾の是正を行っていかないといけない」

 その上で、知事が住民に対し、さらなる“お願い”を繰り返すことに「精神論みたいな話で指摘する矛先が違う。国民はすでに疲弊しきっているし、国に向かって矛盾の是正を指摘するのが大事」と主張した。

 度重なる国民の我慢の中、新型コロナウイルスは現在主流の英国株と、より毒性の強いインド株の混合とされるベトナム変異株の存在も確認されている。

 加藤勝信官房長官は会見で「現時点でわが国において感染者は確認されていない」と語ったが、ベトナム変異株による“第5波”を危惧する古本氏は「先見性がない。『今は確認されていない』という話ではなく、出てくるだろうという前提で、クラスター化したらどうするかを考えないといけない。日本の行政の危機管理の甘さを示している」と斬り捨てた。

 東京五輪にはボイコットしない限り、ベトナムやその周辺国の選手もやってくる。感染対策の徹底と違反者への国外退去も視野に入れてはいるが、「日本と海外の感覚は違うし、勝負の世界だから、勝利を祝って飲食店に繰り出すことも考えられる。日本は性善説で『国外退去させるから大丈夫』なんて言うけど、規制を破った人に対する罰則としては甘いでしょう。東京五輪を契機として、爆発的に日本で増える可能性がある」と懸念した。

 行政トップの考えが甘いままでは、国民はずっと緊急事態宣言下に置かれることになりかねない。