東京五輪は開催すべきか、中止すべきか――。10日の衆議院予算委員会で菅義偉首相は「国民の命と健康を守り、安全安心な大会が実現できるように全力を尽くす」と、開催を目指す考えに変わりがないことを表明した。一部では開催を中止することによって生じる経済損失を危惧する声も根強いが、経済評論家の山本伸氏は「開催中止で生じる経済損失は限定的」として、経済的観点から中止による“損切り”も有力な選択肢との見方を示した。

 これまでの新型コロナウイルスより感染力が強く強毒性といわれる変異株の流行で、第4波の真っただ中にある日本。東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に発令されていた緊急事態宣言は、愛知と福岡を追加して31日まで延長される。

 それ以外にも、ここにきて各県が過去最多の感染者数を連発する負の連鎖に陥っており、2か月半後に東京五輪の開会式を迎えられるとは多くの人が考えられない状況だ。

 実際、読売新聞の世論調査では国民の59%が東京五輪について「中止する」と回答し、もはや国民の機運は下がりつつある。また、5日には米紙ワシントン・ポストが、IOCのバッハ会長を「ぼったくり男爵」とののしって東京五輪の開催中止を勧告するなど、世界の論調も開催中止を促す流れになっている。

 そんな中、10日の衆議院予算委員会で、立憲民主党の枝野幸男代表や山井和則議員から開催の可否の判断を迫られた菅首相は、「国民の命と健康を守り、安全安心な大会が実現できるように全力を尽くす」と繰り返し答弁。開催実現への意志を強調した。

 今年は10月に衆院議員が任期満了を迎える。総選挙が控えるだけに菅首相も世論には敏感なはずだが、国民の大多数の意思に反して東京五輪開催を強行しようとする姿勢には疑問が残る。

 東京五輪を中止した場合については一部で経済損失を危惧する声が上がっているが、経済評論家の山本伸氏は「東京五輪開催を中止することによる経済損失は限定的」として、こう話す。

「東京五輪による経済特需の主たるものはインフラ整備だが、もうとっくに終わっている。ほかは世界中から来る観客のインバウンド効果だが、今は新型コロナで開催してもしなくても元からゼロ。これから開会式までの間に起こる需要もテレビの買い替えくらいで微々たるもの。中止を発表しても株価は織り込み済みで大きな変動はなく、経済損失はほとんどない。経済的観点から“損切り”のための開催中止は有力な選択肢であるべき」

 世界的に新型コロナの流行が収まっていない状況で開催した場合、残念ながら新たな変異株ウイルスが国内に持ち込まれるリスクは否定できない。もし、そうなれば現在の緊急事態宣言以上に厳しい対策が求められ、それこそ日本経済にとって死活問題となる。

「もし、開催中止した場合、問題になってくるのは全米での放送権を持っているNBCへの補償。当然ながら、すでに東京五輪中継の広告は売り切っているが、どうやらNBCは中止を見越してこれに保険をかけていたという話がある。また、IOCへの違約金が発生するという話もあるが、開催都市契約にそんな条項は存在しないようだ」(山本氏)

 つまり、東京五輪開催を中止することに経済損失はほぼないということになる。それ以上に、万が一の事態が発生した場合のリスクが大きいと言えそうだ。

 菅首相が東京五輪の開催実現へ強い意志を示す一方で、東京都の小池百合子知事が自身の国政復帰に向けて五輪開催の可否を損得勘定の天秤にかけ、最後にちゃぶ台返しの開催中止を宣言するのではないかとの声も一部で上がり始めている。開会式まで残すところ2か月半となったが、果たして東京五輪は開催されるのか、それとも――。