「できることができなくなった」田中邦衛さん 知られざる晩年の葛藤

2021年04月03日 06時15分

亡くなっていた田中邦衛さん

 テレビドラマ「北の国から」の父親役などで人気を集めた俳優の田中邦衛(たなか・くにえ)さんが3月24日午前11時24分、老衰のため死去した。88歳だった。岐阜県出身。葬儀は家族で行った。ぼくとつとした語り口で親しまれ、人との出会いを大切に役者人生を歩み、テレビドラマ「北の国から」(フジテレビ系)の主人公黒板五郎にも似た真っすぐな人柄が多くの人から愛されていた。

 田中さんはここ数年、高齢のため俳優を休業。2012年8月に行われた俳優・地井武男さん(享年70)の「お別れの会」では「北の国から」で息子役だった吉岡秀隆に支えられながら、祭壇の前に立った。

 業界関係者によると「ずいぶん前から『もう人前には出ない』と公言していた。衰えゆく姿を見せたくなかったのだろう」という。

「12、13年ごろから隠居生活で家族で介助できたのですが、15年ごろからは要介護になり、自宅から車で20分ほどの有料老人ホームに入った。歩行できず、施設内でも車いす生活でした。『自分でできることがひとつひとつできなくなっていた』と言い、すべてに介助が必要で、食べ物、飲み物も飲み込みにくくなっていたほどです。でも、意識はしっかりしていました。そして、17年からは自宅に戻ってリハビリ生活をしていたそうです」

 最近は公の場に姿を現さず、静かな暮らしを送っていたという。

 マスコミもかねて田中さんにインタビュー取材を申し込んでいたが頑なに受けなかったという。最後まで生粋の俳優だった。

 そんな田中さんが強烈な印象を残したのは1961年からの映画「若大将」シリーズと、81年からのドラマ「北の国から」だろう。

「若大将」シリーズで主役の加山雄三さんと張り合う青大将役で評判に。

 映画関係者は「若大将シリーズでは加山雄三さんの引き立て役とも言えたが、『北の国から』で田中さんらしい役者人生になったんでしょうね」と語る。

「北の国から」に黒板五郎役で主演。子ども役の吉岡や中嶋朋子とともに、北海道・富良野の大自然の中でたくましく生きる家族を演じた。子どもたちに真っすぐな愛情を注ぐ不器用な父親像は、多くの共感を集めた。

 また、田中さんと言えば「網走番外地」(65年)など、多くの映画で故高倉健さんとタッグを組んだことで知られる。

「駅 STATION」(81年)では、厳寒期の北海道での撮影だった。芸能プロ関係者は「雪のシーンの撮影だが、雪が降っていなかったため〝雪待ち〟となり、あまりの寒さに田中さんは暖房の効いたロケバスに避難。ところが、車窓から見ると、健さんは外で立っていた。田中さんは『健さんはスタッフを無言で支えているんだ』とあわててロケバスを飛び出したんです」と語る。

 そんな田中さんと高倉さんが〝漫才コンビ〟を結成しようとしたエピソードについて、ビートたけし本紙客員編集長が、こんなエピソードを本紙に語ったことがある。

 たけしは「お笑い芸人が映画賞を取るようになったから、ラジオで『役者よりお笑いの方が芝居がうまいじゃねえか。何なら役者がお笑いやってみろ』って言ったことがある。そしたら健さんが田中邦衛に『漫才やろうか』って言ったらしいよ」と本紙に明かした。

〝健・邦衛〟の漫才コンビが実現していたらすごいことだが、「だけどネタ合わせやったらお互い無口で『こりゃダメだ』と、すぐにやめたって(笑い)」とたけしは明かした。こうして漫才コンビ〝健・邦衛〟は幻に終わったという。

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