この世界は男のカベが分厚いのか。将棋の女流戦で3冠を保持し、女性初のプロ棋士を目指していた「奨励会」三段・西山朋佳(25)の奨励会退会が、ファンの驚きを呼んだ。史上初の女流6冠を遂げた里見香奈(29)も2018年に退会しており、プロとなる四段昇段をかけて競われる三段リーグの厳しさを改めて印象づけた。

 西山は1日付の退会と女流棋士に転向することを同日に公表。理由について「葛藤しながら対局を続けていた。現状を鑑みて、周りとも相談して決めた」と述べた。

 将棋のプロは男女の区別のない棋士と女流棋士がいて、制度が異なる。棋士志願者が入会する養成機関の奨励会で、プロへの最終関門となるのが年に2回行われる三段リーグ。上位2人が昇段できる18局の戦いはシ烈を極める上に、原則として26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段になれなければ退会となる。過去に里見ら多数の女流棋士が挑んできたが、いまだ女性棋士はいない。

 西山は6月で26歳となる。挑戦チャンスを残しての退会だけに、本人のツイッターには「エープリルフール?」と疑う投稿が続くほど反響は大きかった。

 昨年3月終了のリーグでは14勝4敗とトップタイの成績ながら、3位で昇段はならず。その後は7勝11敗、9勝9敗と続き、退会に至った。

 そんな三段リーグで西山は「天才」藤井聡太2冠(18)と語り草になる対局があった。

 16年のリーグ最終局で2人は盤をはさんだ。藤井はこれに敗れると昇段お預けとなるところで西山を破り、史上5人目の中学生棋士と騒がれた。西山は雑誌の取材に「それまで藤井先生とは私の2勝0敗なんです」と語っている。西山が勝っていれば藤井の史上最年少棋士という快挙もなく、将棋の歴史が変わっていた可能性も指摘される。

 くしくもこの日、初の4年連続勝率8割以上の藤井は年間表彰の将棋大賞で最優秀棋士賞に輝いた。里見との対局が女流名局賞に選ばれた西山は、女王、女流王座、女流王将の3冠女流棋士として再出発する。