エジプト・スエズ運河をふさいだコンテナ船「エバーギブン」(愛媛県今治市の正栄汽船所有)の座礁について、スエズ運河庁のラビア長官は先月31日、離礁作業などで用いた損害額が「10億ドル(約1100億円)を超えるだろう」と地元テレビで明かした。スエズ運河では同月23日、船が運河をふさぐ形で座礁。29日に航行が再開した。世界の物流を混乱させたこの事故には、“ファラオの呪い”説がささやかれたり、スプーン曲げのユリ・ゲラー氏がしゃしゃり出たり、場外戦も大混乱だ。

 海運事故は損害賠償も膨大な金額になる。国際社会の関心の焦点は責任の所在にある。船を保有する会社(船主)と運航会社が異なる場合、一般的には船主が賠償責任を負うことが多い。ただ船主が入る「船主責任保険」の支払いで賄われるとみられる。同船を運航する台湾の海運会社「長栄海運」の謝恵全総経理は1日、「事故発生に関する主要責任は船主にある」との考えを台湾メディアに示した。

 座礁で足止めされた周辺の船舶は422隻で、ラビア氏は29日の運航再開後、31日までに過半数が通過したとしている。

 離礁成功の決め手について諸説が飛び交っている。月の引力が強まり潮位が高くなるといわれる「スーパームーン」や強い風の影響が報じられた。座礁原因も判然としない。そのため、座礁にも離礁にもオカルト話が出ている。

 座礁したのはエジプトの「ファラオの呪い」だという噂がSNSで話題になった。今月3日に老朽化したエジプト考古学博物館から、国立エジプト文明博物館にファラオのミイラ22体を移送する予定だったからだ。ほかにもビルの倒壊や列車事故なども起きていたため、エジプトでは“呪い”説が拡散し、学者たちが噂の火消しに奔走したほどだった。

 また、本紙既報のように超能力者のユリ・ゲラー氏が離礁させるために世界中の人から念力を集めたことも話題になった。メディアを通して、「船を“曲げて”、運河の通航を解き放つのを手伝ってくれ! 土曜日(27日)の午前11時11分と午後11時11分に船が移動するイメージを頭に映像化してくれ」と呼びかけていた。

 その時には離礁こそしなかったが、27日には、船首付近を深く掘り、満潮時にタグボートで船を引っ張ったことで、ラビア氏が「船体が0・4度ほど南に動いた」と発表。ゲラー氏はツイッターで「ほんの少しだけど船を動かしたぞ」と誇らしげにツイートした。

 関係各所の懸命の努力で離礁し29日夕、同運河の航行が再開した。

 するとゲラー氏はツイッターで「やったぞ! 私たちが船をリリースした。みんな、よくやった。大変な作業だったが、みんなのマインドパワーと信じる力が船を解放した」とつづった。

 さらに1日には「国際宇宙ステーションから写真をもらった。写真に印字された時刻を見ると、11時11分と11時13分だ。みんなに集中してくれと呼びかけた時間に船をゆがませていたんだよ」と画像とともにツイートしたのだ。

 画像では、11分の船はまっすぐだが、13分のは曲がっているように見える。ゲラー氏の主張を信じる人がいるのは事実のようで、SNSでは「われらのユリを誇りに思うよ」などの書き込みもちらほら。

 しかし、オカルト評論家の山口敏太郎氏はこう語る。

「ユリ・ゲラーは何か国際的なイベントや事件があると確実に絡んでくるんです。超能力を世間に普及するという意味では彼の存在は大きいです。でも、今回の場合は単なる偶然でしょう。そもそも超能力があるならば、事故が起こるのも事前に予知し、事故を防ぐべきです」

 確かにゲラー氏は2019年に「英国のEU離脱をテレパシーで止める」と言って注目を集めたり、この1月には新型コロナのワクチン接種を受けながらスプーン曲げする動画を公開した。

 山口氏は「まあ、ユリ・ゲラーの言っていることを多くの日本人は真剣に信用しないでしょう。良い意味で日本人がオカルトに対して免疫ができ、楽しむ土壌ができているから、ユリ・ゲラーの発言をジョークだと思うわけです」と指摘している。