オレの食に密はない――。人気漫画「孤独のグルメ」などで知られる漫画家・久住昌之氏(62)が、本紙のインタビューに応じ、独自の振興策を提言した。2度目の緊急事態宣言で経済へのダメージが広がる中、深刻なのは飲食業界だ。東京商工リサーチによると、昨年の飲食店の倒産件数は842件で過去最多。そんな状況を憂える久住氏は、少しでもお店を救うべく「GoTo Goroキャンペーン」なるアイデアを明かした。

 ――飲食店の営業時間は夜8時まで。食に関する作品が多いが、影響は

 久住 コロナ前は大体午前0時ごろに仕事終わって、それから2~3時まで1人で飲む毎日だったんだけど、当然今はやってませんからね。困っちゃうよねえ。

 ――もっぱら宅飲み

 久住 仕方ないよね。でも、仕事場で日本酒飲もうとしても、これが合わなくてさ。なので、アイリッシュウイスキーをチビチビやってます。近くのコンビニ行ってアイスカフェオレ用の氷だけ買ってきて(笑い)。

 ――なじみの飲食店も閉店した

 久住 廃業はいっぱいあるよ。今年に入ってからも2件閉店した。一つは50年続いた東京・吉祥寺のラーメン屋「さくらい」。もう一つは三鷹の中華屋「彩華」で、こちらは40年も続いた。どちらも地元に愛された店なんだけど、なかなか厳しいよね。

 ――それだけに寂しい

 久住 オレ、長く続く店が大好きなの。なんでかっていうと、そんなに持ちこたえたということは、それなりの理由があるから。「彩華」もチャーハンやギョーザがおいしいんだけど、トマトラーメンとかホウレン草麺とか新メニューつくって創意工夫したりする。そういうのがお客にウケるから長く続く。ある居酒屋では、店のオヤジが「コロナ禍のメニュー作った」って言うわけ。出てきたのは「ツナ酢キャベツ」。普段通りに仕入れすると残っちゃうから、保存しやすいように編み出したらしい。それがうまいの。しかも安い。400円。そういうのがいいよね。

 ――会食は感染しやすいとはいえ、飲食店が悪者にされがちだ

 久住 ある時はライブハウス、その次は夜の街でしょ。そして飲食店。でもさ、複数で行かずに、みんな「孤独のグルメ」すればいいんじゃないの。政府はそういう振興策をすればいい。

 ――主人公の井之頭五郎のように1人で黙々と食べる人にクーポンを発行する、と

 久住「GoToイート」ならぬ「GoTo Goro」だよ(笑い)。1人で行ったらクーポンを使える。2人はダメ。そこは厳しく!(笑い)。会話の手段としての食事をやめれば、コロナ禍でもうまい食事はできるし、飲食店を少しでも救うことにつながると思う。間がもたないと言われるけど、そんなことはないよ。

 ――「孤独のグルメ」がコロナ禍のたしなみに

 久住 ただ、1人で食べ慣れていないというのはあるかも。「孤独のグルメ」は世界中で翻訳されているけど、海外では1人で食べる習慣があまりないから、慣れてないんだよね。韓国のある若者は「五郎を見て1人で食べる練習している」って言ってたよ(笑い)。慣れだよ、慣れ。

 ――最後に読者にメッセージを

 久住 お店は本当に苦労しているから、みんな早起きして、早く仕事終わらせて、行ってあげよう。居酒屋のオヤジが「ツナ酢キャベツ」を作ったように、みんなで少しずつ工夫して、コロナを乗り越えようじゃないか。


 くすみ・まさゆき 1958年7月15日生まれ。東京都出身。法政大学卒業後、1981年「ガロ」誌でデビュー。99年に「中学生日記」で、第45回文藝春秋漫画賞を受賞する。94年に連載スタートした谷口ジローさんとの共著「孤独のグルメ」は世界各国で翻訳されたほか、テレビ東京でドラマ化もされた。食に関する漫画・エッセーが特徴。新刊「面(ジャケ)食い」が発売中。