数々の有名企業を渡り歩いた辣腕社長がなぜ暴行事件を起こしたのか? 日本マクドナルドホールディングス(HD)元社長の原田泳幸容疑者(72)が5日、都内の自宅で妻でシンガー・ソングライターの谷村有美(55)をゴルフクラブで殴打し、警視庁渋谷署に暴行容疑で逮捕された。上場企業で日本人トップの報酬をもらっていたこともある経済界の“スーパースター”が、DV(家庭内暴力)によって失脚の時を迎えようとしている。

 突然の逮捕に経済界が揺れた。エンジニアとしてキャリアをスタートさせた原田容疑者は転職を繰り返し、1990年代に業績がどん底だったアップルコンピュータ(現アップル)で、故スティーブ・ジョブズ氏のもと米国の本社副社長として経営改革を断行。日本法人の社長としてもアップルのその後の躍進を支えた。

 2004年にはマクドナルド本社からヘッドハンティングされる形で、日本マクドナルドHDの社長に就任。こちらも当時、業績が悪化していたのを短期間で立て直し、“プロ経営者”としての名声を不動のものにした。

「全盛期は経済番組などにも呼ばれてメディアからは引っ張りダコ。その素晴らしいキャリアから、まさに経済界のスーパースターのような存在だった。一般的には業績の傾いた会社を立て直す“再生屋”のイメージが強いが、その経営手腕はリストラやコストカットがメインで、いうなれば日本版カルロス・ゴーン。そのため“壊し屋”の異名も持っていた」(経済評論家)

 原田容疑者は日本マクドナルドの社長として長年利益を生んできた一方、後半は東日本大震災もあって業績が悪化。一時は3億円以上もの報酬を受け取っていた時期もあったが結局、業績を立て直すことができずに13年8月に社長を退任している。

 その後は「進研ゼミ」などを手掛ける通信教育大手のベネッセHDの社外取締役に就任し、14年6月に会長兼社長となったが、その直後に同社の個人情報大量流出事件が発覚する。

「経営者人生初の挫折を経験した。ベネッセHDでは就任早々に社会を揺るがす個人情報の大量流出事件が起こってしまい、同社の信用が失墜。もはや経営改革どころではなくなった。しかも、この時、流出した個人情報を名簿業者から買った会社は競合他社で、これを機に業績を一気に伸ばしたのも皮肉な話だ」(前出の評論家)

 このころからスーパースターだった原田容疑者の“運気”は下降していたのだろうか。ベネッセHDでは結果を残すことができず、16年6月に就任からわずか2年で涙ながらに社長を引責辞任している。

 それから3年以上の歳月を経て、19年12月に日本でのタピオカブームの火付け役・ゴンチャ ジャパンの社長に就任。一時は女子中高生の間で「タピる」の流行語ができるなど人気のタピオカドリンクだったが、翌年には女子中高生のタピオカ離れが加速。原田容疑者には経営改革の手腕が求められていたが、そのさなかに突然の逮捕となってしまった。

 逮捕容疑は妻・谷村有美へのDV事件。経緯を見ると、原田容疑者へのダメージは計り知れない。

 02年の結婚当初は「超玉の輿婚」と言われ、かつては谷村が夫婦円満ぶりをアピールしたこともある。19年10月のブログで谷村は、原田容疑者が社長だった14年7月に発覚したベネッセHDの個人情報大量流出事件の当時を振り返り、「どんな状況でも腹をくくり、精一杯、でも常に朗らかに夫婦一丸となって協力しあって、乗り越えてきました」とつづっている。

 さらに「生涯をかけて誓いを立てた、伴侶との約束を守る。結婚とは、婚姻関係とはかけがえのない人生で一度だけの契約です」などと書いていた(現在は削除済み)。

 一般的にDVは身内での暴力のため表沙汰になりにくいといわれる。そんななか、今回は谷村自身が通報したことから、事の重大性は大きく、裁判まで持ち込まれれば刑法犯となることも否定できない。

 一時は億単位の報酬を得るなど栄光の人生を送ってきた原田容疑者だが、今回の事件で一気に転落する可能性も出てきた。