世界的に新型コロナウイルス終息の兆しが見えない中、海外にいる日本人はその国をどう見ているのか。またどんな困難があるのか。海外で暮らす日本人たちが、それぞれの国の状況をつづった本「日本の外からコロナを語る」(メディアパル)の著者の一人、米国・ニューヨーク在住の音楽プロデューサー、コスギアツシ氏に話を聞いた。

 コスギ氏は1983年に渡米。ニューヨークで数々の日本人アーティストが利用した音楽スタジオを経営し、2004年に米市民権を取得。現在は映像用音楽レーベルを主宰している。

 ニューヨーク州ではこれまで100万人以上が新型コロナに感染した。ニューヨーク市内の様子は「みんなリモートワークなので、街は死んでいます。電車もガラガラです。感染率が上がっているので、再度ロックダウンの可能性もあります」という。

 市や医療機関などのコロナ対応はどうか。実は最近、コスギ氏の息子にコロナ陽性反応が出た。その際、充実した体制を知って驚いたという。

「感染が増えた昨年春の経験から、体制が強化されました。先日、ブルックリンでルームシェアしている息子がPCR検査で陽性になり、ルームメートへの感染を防ぐため隔離ホテルに入りました。『covid19アイソレーション・プログラム』というのがあって、電話するとすぐに車がアパートまで来て、そのままホテルに入居します。その間、2時間です」

 入ったのは1ベッドルームの部屋。食事は3食部屋まで届けられた。昼夜問わず4時間ごとの見回りがあり、そこで健康状態を確認。悪化していれば即、入院するという万全の体制だ。

 また、陽性反応が出る3日前に会っていたガールフレンドについては、「PCR検査は接触から1週間たたないとできないため、その時点で濃厚接触者が入る予防的な隔離ホテルに入ったんです。ここまで徹底しているんだと本当に驚きました」。ホテル代などは全く負担しなくていいという。

 一方、米市民権を取得したコスギ氏は、コロナ前には考えもしなかったことに悩まされている。日本で米国は上陸拒否の対象国になっており、日本国籍から離脱したことで〝帰国〟が非常に困難なのだ。「86歳になる母が神奈川県で1人暮らしをしています。2019年は3回帰国しサポートしながら米国と二重生活をしていました」。しかし現在、日本に戻るのはほぼ不可能になった。

「近親者が重病の場合は申請して入国できますが、母からの理由書、戸籍謄本、親子関係証明、医師の診断書などが必要な上、在外公館から申請して郵送されたものを日本の外務省で審議。書類が揃ってから2週間から1か月かかります。そもそも母は1人で何とか健康に暮らしているので該当しません。もう15か月会えていません」と、年老いた親に会う道が閉ざされたままなのだ。

 折しも先月21日に「二重国籍を認めないのは憲法違反」という訴えが東京地裁で退けられたばかり。日本の国籍法では、外国籍を取得すると日本国籍を失う。二重国籍は認められていない。これは憲法違反だと海外在住の8人が訴訟を起こしたが認められなかった。コスギ氏も二重国籍が認められていれば、今回のように入国拒否に悩むことはなかった。

 日本国籍の離脱・喪失者数は、令和元年までの10年間で5000人を超える。当人が国籍を離脱しても、多くは親類が日本に残っており、今の状態では葬式にも参列できない。コロナによる入国拒否が続けば、今後こうした問題を抱える人は増える。まるで「自分で国籍離脱したんだろう」と言わんばかりの放置スタンスのままでいいのか。コロナが思わぬ法律問題を浮き彫りにし、問題提起している。