新型コロナウイルスの〝第3波〟襲来が懸念される中、将棋界にも激震が走った。日本将棋連盟は12、13日に福島市の穴原温泉「吉川屋」で行われる予定だった第33期竜王戦7番勝負第4局について、挑戦者の羽生善治九段(50)が体調不良を訴えたため延期すると11日、発表したのだ。PCR検査を受けた羽生九段は幸いにも陰性。将棋界は感染者ゼロを保っている。連盟はいったいどんな対策をしているのか、関係者に聞いてみると――。

 竜王戦で通算タイトル100期に挑んでいる羽生九段は7、8日に京都・仁和寺で行われた第3局終了後、都内の自宅に帰宅。9日に38・9度の発熱があり、病院で診察を受けた。10、11日にも診察・治療を受けたが、熱が下がらず入院。発熱の原因は特定されていないが、新型コロナのPCR検査、インフルエンザの検査ともに陰性だったという。

 羽生九段は連盟を通じ「この度は私自身の体調管理の不行届きにより、竜王戦の対局延期の事態を招き、豊島竜王、主催者、特別協賛、協賛の各社、対局場の設営に御尽力を頂いている関係者の皆様、多くの将棋ファンの皆様に多大な御迷惑をおかけしてしまい、深くお詫び申し上げます。しっかりと療養をして一刻も早く万全の態勢で将棋を指せるように最善を尽くします。誠に申し訳ありません」とコメントした。

 羽生九段は陰性だったが、11月に入り新型コロナの新規感染者数が拡大している。この日、東京では8月20日以来となる300人超えの317人、北海道は7日連続となる3桁の197人、大阪では過去最多となる256人の感染が判明した。

 日本医師会の中川俊男会長は「第3波と考えてもいいのではないか」と話し、感染防止策の徹底を呼び掛けたが、連盟関係者は今後、対策を強化するかについて「現時点では何とも言えない」と語るにとどめた。

 各業界でコロナ感染者が相次いだが、プロ棋士は奇跡的にゼロに踏みとどまっている。対局は長時間に及ぶ上に、東京と大阪、タイトル戦では全国に移動し、感染リスクも高いが、連盟のガイドラインによれば、徹底したコロナ対策に着手している。

 将棋会館の出入り時の消毒、体温チェックの徹底、対局者や記録係にマスクの着用を推奨し、対局毎に将棋盤や駒を消毒。当初は長距離移動を伴う公式戦の対局を延期し、対局後の感想戦も基本的には行っていなかった。また、棋士との握手、集合・密接した写真撮影も禁じるなどしてきた。

 記者の取材も棋戦主催社が代表して取材する形を取るなど「できる限り最少人数になるような対策」を徹底。藤井聡太2冠(18)の取材でも〝特別扱い〟はない。6月に初タイトルがかかった棋聖戦の第1局で、タイトル戦初勝利した際も記者は別室からモニター越しでのマイクを通じての質疑応答で、〝生肉声〟は聞けずじまい。これらの対策や棋士の日頃の感染対策の意識が高いこともあって、感染者は出ていなかったともいえる。

 一方で、対局中のマスク着用については基本的に無言の将棋に必要なのかという声もある。現役棋士はどう考えているのか。

 今泉健司五段(47)は「正直、着けていると息苦しくて単純にしんどいです。でも、皆さん着けてますし、僕も基本的に着けるべきだと思うので、連盟がどちらかに決めてくれたらいい。『どちらでも』とか中途半端なのは、どうなんだろうと思いますね」と話した。

 藤井2冠が棋聖を獲得した際に使用した夏用の絹製マスクが〝勝負マスク〟として話題になる中、棋士がどのようなマスクを着用するのかもファンの楽しみの一つとなっているが、終盤で思考をフル回転させる局面では、マスクを外して盤上を凝視する棋士も多い。

 医師からも脳に酸素を供給する必要性が指摘されているが、事実上の第3波到来となってしまった中、この問題も一旦お預けか。今冬は、マスク着用での対局を強いられることになりそうだ。