大混戦となった米大統領選は、民主党のバイデン前副大統領(77)が当選確実となり、ついに勝利宣言。共和党のトランプ大統領(74)は負けを認めず法廷闘争に出ており、混乱はいまだ続く情勢だ。そんな中、バイデン氏に懸念されるのが、常に米大統領につきまとう“暗殺”の脅威だ。トランプ支持者の暴動も相次いでいる中、バイデン氏は大丈夫なのか?
史上、まれにみるゴタゴタ続きとなった大統領選は投開票日から4日たった7日(日本時間8日)、大勢が決した。大統領選挙人の過半数となる279人を確保し勝利が確実となったバイデン氏は「国民は明確な勝利をもたらした」と勝利宣言した。
大統領選では落選した側の敗北宣言を受け、勝利宣言するのが慣例だが、トランプ氏は「私は多くの票を得て、勝利したんだ!」「何百万もの郵便投票用紙が勝手に送られた」「選挙は終わっていない」と表明しており、当面は各州が選挙人を確定させる最終期限となる来月8日までは徹底抗戦するとみられる。とはいえ、もはや悪あがきでしかない状況だ。
新大統領となるバイデン氏は来年1月の就任時には78歳となり、史上最高齢の大統領となる。健康不安もつきまとうが、中でも心配されているのは暗殺の危険性だ。
米大統領は過去、リンカーンやジョン・F・ケネディら4人が暗殺で命を落とした。レーガン大統領は銃撃されながらも奇跡的に助かったが、米国のみならず、世界のトップとなる要職だけに、その身は常に危険にさらされてきた。
さらに今回は“完全歓迎”されて就任するワケではない。バイデン氏は「分断ではなく、結束を目指す大統領になる」と勝利演説で強調したが、大統領選ではトランプ支持派と反対派がデモを繰り広げ、各地で衝突した。トランプ支持派の中には“バイデン大統領”だけは絶対に受け入れられないと暴走行為に走る者が絶えない。
フィラデルフィアの開票所前では銃で武装し、開票所の襲撃を計画していた過激な陰謀勢力「Qアノン」とみられる男らが5日、警察に拘束された。ほかにも極右団体の「プラウド・ボーイズ」や武装集団「ミリシア」などが危険視されており、これらの勢力やトランプ支持派がバイデン氏を襲撃する事態が起きかねない不穏な空気が流れているのだ。
一方で「暗殺される可能性はゼロではないが、軍産複合体を敵に回していないのでリスクは低い」と指摘するのは長年、米国の政治、経済をウオッチしてきた株式アナリストの山本伸氏だ。
カギとなるのは戦争によって利益を得てきた軍産複合体と民主党との関係だ。
「軍産複合体は長年、共和党と組んで協力関係を築いてきたが、トランプ大統領は米軍や外交政策、通商政策で従来から180度転換してしまった。だから軍産複合体は今回の大統領選では民主党、バイデン側についた」(山本氏)
トランプ氏は就任後、ロシアのプーチン大統領と接近したり、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長とのトップ会談を行う一方、中東への軍事的な関与の縮小のためにシリアからの駐留米軍の撤退など、過激な言動とは裏腹に“平和路線”を歩んできたともいえる。
また、共和党の旗印だった自由貿易はどこかへいき、環太平洋連携協定(TPP)離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しで保護貿易主義に走った。この4年間のトランプ氏の政策は軍産複合体にとっては苦々しい限りだったワケだ。
「軍産複合体が動けば、バイデンが暗殺されるリスクは高まるが、それは低い。Qアノンやプラウド・ボーイズなどはバイデン憎しといえどもSNSで集まった烏合の衆で、組織立っていない。既にシークレットサービスがバイデンの警護に当たっており、ライフルを持った民兵が暴れたところで、たかが知れている」(同氏)
黒人初の大統領となったオバマ氏や4年前のトランプ氏も暴漢ではなく、身内から暗殺される危険と隣り合わせの中での職務だった。新大統領となるバイデン氏はリスクは低いとはいえ、気が抜けない日々となりそうだ。