日本映画史上最速で興行収入100億円を突破した大ヒット映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、もはや社会現象となった。一方で、社会問題も生み出したようだ。「『鬼滅の刃』ハラスメント」を略した「キメハラ」という言葉までも誕生した。感動アニメ作品とイジメやいやがらせが、どうつながるのか?

「キメハラ」とは、映画、アニメ、漫画の「鬼滅の刃」見ていない人に見ることを押し付けたり、同作品に関する否定的な意見を許さなかったりする風潮を指すという。

 この言葉はTBS系の情報番組「グッとラック!」が報じて、「そうそう、あるある」「作品に罪はない」「なんでもハラスメントをつければいいってもんじゃない」など、大議論になっている。

 キメハラは実際に行われている。神奈川県の介護施設のスタッフはこう明かす。

「『鬼滅の刃』の漫画がスタッフ休憩室に置いてあって、休憩時間に読んで、感想文を所長に提出しないといけないのです。私にとっては、生理的に受けつけない画風ですが、そんな意見は口が裂けても言えません。『鬼滅の刃』の映画を見に行ったスタッフが、私より優遇されているように感じることもあります」

 どんなに面白いとはいえ、スタッフに「鬼滅の刃」の全22巻の読破を強要する所長がいるというのだから驚きだ。

 法曹関係者によれば「憲法19条に保証された良心・思想の自由を侵害するようなパワーハラスメントですから、労働審判を起こして争うこともできます」という。

 職場だけではなく、学校ではその風潮が著しいようだ。中学生の娘を持つ母親はこう嘆く。

「『鬼滅の刃』に興味ないという娘が、同級生のライングループから外されたり、無視されたりするイジメに遭っています。イジメ対策に、見たくもない映画を見ないといけないのでしょうか? ママ友の間でもキメハラがあるので当惑しています」

 この風潮に「サブカルチャーの心理学」などの著書で知られる社会心理学者の山岡重行氏は警鐘を鳴らす。

「『鬼滅の刃』ファンの、非支持者を否定する言動をキメハラと呼ぶようですが、人には他者との合意を自分の正しさの証明と考える合意的妥当化という傾向があります。集団内では差異をなくそうという斉一性の圧力が働きます。その結果、仲間を増やそうと布教活動が生じます。正しさとは無関係な領域でも、この傾向が発動されてしまうことがあります。キメハラもその一例でしょう。しかし、高圧的な布教は、心理的反発により反対派を増やすことになるので要注意です」

 趣味、宗教、サプリ、情報商材、映画、小説…自分が良いと思うものを他人とも共有し、共感し合いたいという感情は、誰しもが持っているだろう。だからといって、心理的な苦痛を与えるほどの押し付けすぎは嫌がらせ=ハラスメントだ。