渡哲也さんの代表作に挙げられる昭和の名作ドラマ「西部警察」。ド派手なアクションシーンに加え、北海道から鹿児島県まで16道府県で撮影が行われた「日本全国縦断ロケ」(1982~84年、全11回)も視聴者に強烈なインパクトを与えていた――。

 かつて「石原裕次郎記念館」には「西部警察」に関する“信じられないデータ”が公開されていた。

 破壊した車両=約4600台。ガソリン使用量=約1万2000リットル。使用した火薬の量=約4・8トン。撮影で飛ばしたヘリコプターの数=延べ約600機。ロケ地=4500か所。壊した家屋=320軒。(警察に提出した)始末書の数=45枚。しかし、最も知りたい「カーチェイスでクラッシュした自動車の台数」は記載されていなかった。もしかしてメインスポンサーだった「日産」への配慮だった? とにかく破天荒の連続だった。

 ドラマの初回から銀座のど真ん中に装甲車(戦車)が登場。第10話では番組のオープニングでおなじみの日産セドリック230型(ドラマでは強奪された現金輸送車)が道行く車の上を大ジャンプ。これ以降、西部警察の過激な演出は加速していく。

「仙台爆破計画―宮城・後編―」(83年12月25日放送=関東地区の視聴率15・0%、ビデオリサーチ調べ=以下同)では、仙台市内を逃げ回ってきた犯人が運転する白い330セドリックが(当時の)日産サニー宮城の敷地内に逃げ込む。犯人の車は整備中のサニーにぶつかり、スカイライン・ジャパンGTのパトカーと正面衝突。揚げ句、日産「スタンザ」の看板を突き破って…屋上からダイブして逃走。もう何がなんだかわからないが…面白かった。

 ちなみに、「西部警察」のカースタントを担ったのは「もう一人の大門軍団」と言われた「三石千尋(みついし・ちひろ、2005年没)」。西部警察・第104話(栄光への爆走)で見せた「日産フェアレディZの運河越え」は東京・芝浦にある「東京ポートボウル」近くにある道路から「芝浦運河」を大ジャンプ。その映像はオープニングのタイトルバックにもなった。

 だが、これだけでは終わらないのが西部警察。湯水のように制作費を使い続け、番組は億単位の赤字を計上。万事休す。そこで石原プロモーションが考案したのが大手広告代理店をスルーしたおきて破りの策「日本縦断ロケ」だった。

 今でいう“地元企業とのコラボ”。ストーリーの中には、企業が捜査協力するという設定で、役者ではなく企業のトップクラスや社長本人が出演。なぜか?ドラマ脚本の中に、企業名や商品名が入った不自然なセリフが連呼されるのだ。

 地方ロケ第2弾だった「広島市街パニック!!」(82年10月17日放送)は関東圏での視聴率18・5%、地元広島では驚異の49・6%をマーク。それもそのはず! この回では、昼夜市街を走るホンモノの広島市電を爆破する衝撃的映像が…。撮影を見物するやじ馬がそのままエキストラとして全国放送された場面はあっぱれ!のひと言である。

 一方、苦戦したのは「京都」。「京都・幻の女殺人事件―京都篇―」(84年4月29日放送)は縦断ロケが定着したこともあってか、関東地区の視聴率は6・8%に留まっている。

(柳田光司)


 ◆やなぎだ・こうじ「演芸墓掘人」の異名を取る放送作家。水道橋博士のメルマ旬報で連載中。「あんぎゃでござる!!」(KBS京都、TOKYO MX2他)、FM大阪「R45 ALL THAT“らじヲ”」に出演中。