佐藤優「やられたらやり返す」米中外交戦争の行き着く先

2020年08月04日 07時10分

佐藤優氏

【マンデー激論:佐藤優】米中関係がかなりヤバイ。7月24日に米国の在ヒューストン中国総領事館が閉鎖された。米政府によれば、この総領事館が中国のスパイ活動の震源地になっていたからということだ。総領事館が運営しているエージェント(工作員)で逮捕された者もいる。

 各国が大使館や総領事館を拠点にインテリジェンス活動(そのうち非合法活動に従事する者をスパイと呼ぶ)に従事しているのは公然の秘密だ。目に余る違法行為があった場合、カウンターインテリジェンス(防諜機関)が摘発する。スパイを摘発した場合でもそれを公表せずに静かに処理することが多い。身柄拘束の事実を公表し、しかも総領事館の閉鎖に踏み切ったのは異例だ。外交の世界には相互主義、すなわち「やられたらやり返す」というルールがある。

 中国政府は、米政府に四川省の在成都米国総領事館の閉鎖を求めた。同総領事館は、7月27日に閉鎖された。閉鎖された後の総領事館は外交特権を持たない。短時間の間に書類やデータをすべて抹消することは不可能なので、今後、両国は総領事館の捜索によって押収された証拠に基づいて互いにスパイ活動を非難するであろう。

 今回の在ヒューストン中国総領事館の閉鎖をトランプ大統領の選挙対策と見ると事柄の本質を見失う。米紙「ウォールストリート・ジャーナル」は27日の社説でこう指摘した。

<1つ懸念されるのは、中国政府が米国の新たな姿勢をトランプ大統領による選挙戦略の1つだとして切り捨てる恐れがあることだ。/それは過ちになるだろう。例えば、民主党は米国の対イラン措置を厳しく批判しているものの、トランプ政権が中国政府を攻撃しても、それを支持したり、黙認したりする姿勢を示している。この新たな姿勢は、ブルーカラーの有権者から産業界および安全保障分野のエリートに至るまでの層の間で、中国があまりにも長い間、罪を逃れ過ぎているとのコンセンサスが生まれつつあることを反映している。ジョー・バイデン氏が次の大統領になったとしても、その政権は、西太平洋の緊張した状況と、米国内における中国の影響力を標的として進められている多数のスパイ防止活動や刑事捜査を受け継ぐことになる>。

 新型コロナウイルスによる感染症が中国の武漢から拡大していたことによって、米国の一般国民の対中感情が悪化している。それが政治問題と結びつき、中国を懲罰するタイミングに至ったとのコンセンサスが米社会で形成されつつある。米中外交戦争が始まった。 


☆さとう・まさる 1960年、東京生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省に入省。ソ連崩壊を挟む88年から95年まで在モスクワ日本大使館勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍した。2002年5月、背任容疑などで逮捕され、09年6月に執行猶予付き有罪判決が確定した。最新著書は「ヤン・フスの宗教改革 中世の終わりと近代の始まり」(平凡社新書)。