藤井七段コロナ禍の進境 52日間の空白「自分の将棋と向き合えた」

2020年06月05日 17時00分

会見する藤井七段

 将棋の渡辺明棋聖(36=棋王、王将との3冠)への挑戦権を懸けた第91期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメントの挑戦者決定戦(決勝)で、永瀬拓矢2冠(27=叡王、王座)に勝利を収めた藤井聡太七段(17)。タイトル挑戦の最年少記録という偉業が加わった高校生棋士の快進撃が止まらない。プロ棋士の勝又清和七段(51)が藤井七段の強さを解説する。

 東京・渋谷区の将棋会館で4日に指された挑戦者決定戦の対局は、100手で藤井七段が勝利し、最年少タイトル挑戦を決めた。

 終局後の会見で藤井七段は「今日は集中しようと思って臨んだ。普段通りに指したつもりだったが、永瀬2冠に踏み込まれて激しい戦いになった」と振り返った。

 8日にタイトルをかけた棋聖戦5番勝負が開幕する。その時、藤井七段の年齢は17歳10か月20日で、1989年12月に屋敷伸之九段(当時四段)が棋聖戦に登場した時の17歳10か月24日を30年ぶりに更新。5番勝負の最終戦(7月21日)でタイトル獲得でも、誕生日2日後の18歳0か月2日のため、屋敷九段が90年8月に棋聖戦を制した当時の18歳6か月を大幅に上回る最年少タイトル奪取記録となる。

 5番勝負で立ちはだかる渡辺棋聖について聞かれた藤井七段は「攻めが鋭い将棋。最近、特に充実されているなと感じている」。タイトル戦自体には「一つの最高の舞台かなという印象。まだタイトル戦に挑戦するという実感が湧かない」と話し、「これまでは、タイトル戦まで行けなかったので、それを今回達成できて前に進めたなと思っている。得た機会をしっかり生かしたい。5番勝負を通して自分も成長することができたら」と意気込んだ。

 新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言を受け、日本将棋連盟は遠距離移動を伴う対局を4月11日から5月31日まで休止。名古屋を拠点とする藤井七段は52日間実戦から遠ざかり、先の見えない状況で最年少記録の実現も危ぶまれた。この間、「自分の将棋としっかり向き合うことができたと感じている」。高校も休校の中、“ステイホーム”期間をびっしりと将棋の研究に費やしたのだろう。

 勝又清和七段は、藤井七段のコロナ禍の過ごし方についてこう語る。

「将棋は対戦相手がいるので、対局前はデータベースなどを使って相手の分析をします。藤井七段はもちろん相手の研究もしていると思いますが、それ以上に自分が強くなることを考えているように思います。だから、自粛期間中に『自分の将棋に向き合えた』と言ったのではないでしょうか」

 対戦相手よりも自分自身を見つめる…高校生だけに成長率がハンパなかったのだろう。

 その藤井七段の実力を勝又七段は「対局終盤で、藤井七段はミスをしていたのですが、対局後に藤井七段がそのことを話すまで、私は気づきませんでした。それくらい、ミスをしても動じていなかった。17歳とは思えない精神力には感心します」と称賛する。

 それにしても、棋聖戦の決勝トーナメントでは、斎藤慎太郎八段(27=2018年に王座)、菅井竜也八段(28=17年に王位、平成生まれの棋士として初のタイトルホルダー)、佐藤天彦九段(32=3期維持した前名人)、永瀬2冠ら近年のタイトルホルダーを相手に勝ち上がってきた。藤井七段の勝負強さは底が知れない。とはいえ、迎え撃つのは、あまりに強すぎるがゆえ、“魔王”の異名を持つ渡辺棋聖だ。

 勝又七段は5番勝負の行方について「将棋界における永瀬2冠や藤井七段らの若い世代は過去最大と言っていいほど層が濃い。その中で勝ち進んでタイトルに挑戦するのは信じられないくらい。藤井七段はこの3年間で順調に成長しているし、彼なら次の対局も勝てるのではないでしょうか」と期待を込めた。

 プロ棋士もうならす腕前は“魔王”相手にどこまで通用するのか?