東京・北区や足立区、埼玉県戸田市などで目撃されたシカが3日、足立区の荒川河川敷にある野球場に出現し、警視庁や足立区の職員ら約30人によって捕獲された。数日にわたって逃げ回ったシカの“大捕獲劇”は大きな注目を浴び、上空にはヘリコプター2台が旋回。報道陣や多くのやじ馬がその様子を固唾をのんで見守った。だが問題はシカの今後で、行き先がまだ決まっていないという。

 このシカは野生のニホンジカで1歳半くらいの若いオスとみられ、体長は1・5メートルほど。5月31日には、戸田市の戸田ボートレース場などでの目撃情報が寄せられていた。

 翌日の6月1日には戸田橋緑地や豊島区の荒川野球場でも姿を確認。翌2日には板橋区の荒川河川敷にある野球場で草を食べている姿や、足立区鹿浜橋付近にいるところなどが目撃された。

 2日には荒川周辺に出没したところを警察や消防、足立区職員らが網やドローンを使って捕獲しようと試みたが、シカは網を飛び越え逃走。荒川に飛び込み、泳いで逃げてしまった。

 なかなか捕まらなかったシカだが、捕獲劇は3日午前9時ごろ、突然始まった。

 足立区の荒川河川敷にある野球場で、通行人がシカを発見し通報。気付かれたのが分かったのか、シカは草むらの中に姿を隠した。そこへ通報を受けた警察官や区職員がやってくると通行人や近隣に住む親子連れ、サイクリングを楽しむ人など約80人の“ギャラリー”が集結。様子を見守った。

 サイクリング中だった60代の男性は「まさか、こんなところにシカが出るとは…。街に出て車にはねられたら危ないので、早く保護してほしい」と心配そうに語った。

 前日は川を渡って逃げられただけに、その失敗を繰り返さないように3度も打ち合わせを行ったという。警察はサッカーゴールに使われる大きな白い網を用意し、シカがいる草むらに向かって一列に配列。網の位置を入念に微調整して準備を整えた。中にはさすまたや盾を持った警察官の姿も見られた。

 そうした中、警察官2人が棒を持って草むらに入っていくと、すぐにシカが外に出てきた。待ち構えた網にかかると警察官は、シカの前脚と後ろ脚、さらに口先を押さえた。シカが野太い声で鳴きだすと、それを聞いた職員が「ごめんな、もう少しだから」となだめる一幕も。

 その後シカは、脚をひもで縛られ、迎えにきたトラックの荷台に乗せられた。午前11時40分ごろ、無事保護されたシカはパトカーに先導され、足立区の区立公園へ搬送。引き取り手が見つかるまで、しばらくはこの公園で保護されるという。

 気になるのはシカが今後、どうなるのかだ。足立区は「引き取り手を探している」というが、シカを引き取るところがあるとは考えにくい。

 引き取るとすれば動物園くらいしか考えられないが、ある動物園関係者は「新型コロナウイルス感染拡大の影響で、多くの動物園は長い間、閉園していた。その間は来場者がいないので収入はなかったし、受け入れる余裕のある動物園はないだろう。新しい動物を受け入れると環境の変化に戸惑うことも多く、職員の負担も大きい」と指摘する。

 野生のシカだとすれば、生息していた山に帰すのが一番良さそうだが、果たしてどの山からやってきたのか? 特定するのは難しいだろう。

 山に返すこともできないため、引き取り手がなければ殺処分になる可能性もあるという。無事に保護されただけに、どこかで生き続けてほしいが、果たしてどうなってしまうのか?