希代の作家・三島由紀夫(享年45)の“禁断映像”がついに――。学生運動が盛り上がったさなかの1969年5月、三島が反目する東大全共闘のもとに単身乗り込んだ時の模様を収めたドキュメンタリー映画「三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実」が20日に公開される。同作のナレーターは何かと話題の俳優・東出昌大(32)。豊島圭介監督(48)は本紙取材に「唯一無二の声。東出さんでなければ、この作品は完成しなかった」と絶賛した。

 作家として数々の名作を世に送り出し、晩年は政治活動に傾倒していった三島。1970年11月に市ヶ谷駐屯地内で自衛隊を前に大演説をぶち、その後、割腹自殺したことは昭和の衝撃事件として記憶されている。

 そんな三島は亡くなるおよそ1年前、東大駒場キャンパスの900番教室に集う1000人を超える東大全共闘メンバーと、激しいトークバトルを繰り広げた。

 天皇主義者の三島と、旧体制変革のためには暴力も辞さない全共闘は思想的に水と油。三島は全共闘のオファーを快諾し、単身900番教室に乗り込んだ。

 当時の映像はTBSだけが保管。三島の没後50年という節目についに解禁となった。

 監督は東大出身の豊島氏。“三島初心者”だったが、文献を読みあさり、瀬戸内寂聴さん(97)や三島が主宰した「楯の会」メンバーなどの“生き証人”へのインタビューを経て実像を浮かび上がらせた。

「やはり三島の話術ですよね。現場はもっと殺伐としてもいいのに、三島はそこで笑いも取っている。相手が誰でも真摯に向き合う一方で、目立とうとする生来のスター気質を感じました。この映画で“生の三島”を体感してほしいですね」と豊島氏。

 劇中では1年後の死を予期しているかのような三島の発言も飛び出す。

 ハイライトは当時気鋭の劇作家で知られた芥正彦氏(74)と三島の“タイマン”トークバトル。互いに高度な思想を戦わせ、論破しようとする姿は圧巻だ。

 豊島氏は「試写会に芥さんを招き、終わった後に『やっと三島を弔えた気がする』とおっしゃっていました」と明かす。

 同作でもう1つ注目なのが、ナレーター(当初はナビゲーター)を東出が務めていることだ。年明けに若手女優の唐田えりか(22)との不倫が発覚。激怒した、妻で女優の杏(33)に家を追い出されてしまった。

 オファーは騒動前で、豊島氏いわく「彼は三島作品が好きで、ブ厚い長編小説も読んでいました。オファーを出した段階で、僕なんかよりよっぽど理解していました(笑い)」。

 声も唯一無二だという。「作品とちょうどいい距離感の声なんです。ナビゲーターによっては個性が強くて、作品に入り込みすぎてしまうことがありますが、彼の声はふわっと自然に入ってくる。お客さんも心地よく聞けたと思います」

 試写会では、エンドロールでドカンと「東出昌大」の文字が流れたが、笑いは一切起きなかったという。

 豊島氏は「こういう声を出せる人はなかなかいません。東出さんがいなかったら、この作品は完成しなかった。いろいろあるかと思いますが、機会があればまたお願いしたいですね」と太鼓判を押した。

 私生活で苦境に立たされる東出。17日には同映画のトークイベントで、騒動後初めて公の場に姿を現すが、ナレーションという“秘めた才能”で再ブレークの可能性もありそうだ。