中国からアジア、そして世界へ広まる新型コロナウイルスによる肺炎パニック。そんな中、中国人に一番人気の渡航先・タイの保健省は「新型コロナウイルスによる肺炎重症患者にインフルエンザ治療薬と抗エイズウイルス(HIV)薬を組み合わせ投与したところ、症状が劇的に改善した」と2日、発表した。そんなビッグニュースに便乗し「精子がコロナウイルスを抑制する」だとか「子供のオシッコを飲めば予防できる」などの不謹慎なフェイクニュースまで流れている。

 中国国家衛生健康委員会の3日の発表では新型肺炎の死者が前日発表より57人増えて計361人となり、2002~03年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の中国本土での死者数349人を超えた。感染者は2829人増え、2日までに計1万7205人に達した。重症者は約2300人で、SARSの世界全体の死者数774人を上回る可能性も出てきた。

 一方、タイ保健省によると、肺炎の発生源となった中国・武漢から観光でタイに来て、先月29日から首都バンコクで入院し治療を受けていた70代の中国人女性重症患者に、医師がインフル治療薬と抗HIV薬を投与したところ、48時間以内にウイルスが消失したという。

 SARS大流行のときも「エイズの進行を抑えるアミノ酸結合物を投与することでウイルスの細胞侵入をかなり阻止できた」と香港大学の研究グループなどが発表した。今回のニュースも、有効な治療法の確立につながるのでは、と各国医療関係者が注目している。

 そんな中、中国では、いわゆる民間療法にまつわる真偽不明情報が飛び交っている。「ニンニクに治療効果がある」「熱湯を浴びればウイルスを殺せる」などだ。こうした説を信じる市民も大勢いる。

 2月に入り、さらに「精液で肺炎を予防できる」というチン説が流れている。香港に拠点を置く中国紙「文匯報」が「成年男性の精液に新型コロナウイルスの抑制効果があり、武漢肺炎の発症を抑えることができることを中国科学院が発見」というネット記事をアップしたと話題になった。

 SNSでは面白がられ「街中で女性たちに襲われ、強制搾精されないだろうか」「逆レイプが怖い」「若い女性ならいいが…」とネット民の反応も多数見受けられた。

 だがこの話、当然真っ赤なウソ。情報の出どころは中国IT大手アリババが運営するSNS「大魚号」だ。「文匯報」が実際に報じた「双黄連口服液という漢方ドリンクが新型コロナウイルスを抑制する可能性がある」という記事の「双黄連口服液」の部分が「男性排出精液」と替えられたコラージュ画像だった。

「元の記事をベースに適当な写真をくっつけ、文匯報のロゴまでつけて、それっぽく作ってあるけど、面白半分で流した完全なフェイクニュース。ただ『もしかしたら効くかも』とすがる人々がシェアし、一気に拡散した。今の中国では、単なるジョークじゃ済まされない」とは現在も上海に残る日本人駐在員だ。

 さらに「8歳以下の子供の尿を飲むことで、コロナウイルスを予防できる」という珍説もネット上に出現した。

 肺炎関連サイトで「子供の尿は新型肺炎に効果がある?」という質問に、医師のチームが「8歳以下の幼児の尿は肺炎によって引き起こされる咳や吐血、鼻血を治療する効果がある」などとお墨付きを与えたというものだった。

「中国医学では子供の尿は立派な薬。10歳以下の男の子が満月の1日前、朝イチに絞り出す尿が最も薬効が高いとされる。浙江省にはその『童子尿』で卵を煮込んだ『童子蛋』という美食もある。解熱、抗炎症、ぜんそくが治るなどと考えられ、無形文化遺産にも登録されている」(前出駐在員)

 そんな背景からか、前出の精液よりも信じ込む人が多く、サイトの画像は瞬く間に拡散。ところが、これも大ウソで、画像自体が精巧に作られたフェイクだった。

 悪用されたサイト上で発言したとされる医師は「PS(フォトショップ)の技術は非常に素晴らしい。自分でも信じてしまいそうなほど。でも私はそんなこと一切言ってません」と否定した。

 今も昔も、世間の混乱に乗じた流言飛語は本当に厄介。「もし今、専門家が『犬の小便が効く』と言ったら、次の日には犬の奪い合いになるだろう」と真顔で語る中国人もいるほどだという。