肺炎パニック状態の中国は感染者が加速度的に増え、歯止めをかけられないという惨状。マスクがどこにも売っておらず、修羅場と化している中、心の支えになっているのが漫画やイラスト。“愛国萌え”ともいえる作品の数々に、中国共産党もこれらを支援し、盛り上がりを見せているのだ。

 実は中国は、世界有数のマスク生産国でもある。ただ今は、感染拡大による爆発的な需要増大に加え、発生源となった武漢をはじめ各地の移動制限や春節休暇(2日まで)で稼働していない工場も多かった。通常は1日あたり2000万枚生産できるところ、800万枚にとどまっているのが現状だ。

 ドラッグストアや雑貨店などは、軒並みマスクが売り切れか、慢性的品薄状態。日本でも、春節休暇の中国人観光客を中心としたマスク買い占めが各地で発生した。また本土では、道端に捨てたマスクを集めるやからが現れたり、マスクを煮沸して再利用するのにいいと噂になったウオッカまで品薄になったり…。「中国各地でマスクの奪い合いが起きているよ」とは、上海にとどまる日本人駐在員だ。

「マスクを不当に値上げしている薬局が多く、当局が取り締まりに乗り出している。自宅のそばの薬局も便乗値上げしていたようで、50万元(約781万円)の罰金を命じられたと頭を抱えていた。北京郊外の天津市では、通常12元(約187円)のマスクを128元(約2000円)で売っていた薬局が摘発され、300万元(約4686万円)の罰金を食らったそうだ」

 当局が厳しく統制し、中国国内は戦時下のような緊張感すら漂っている。一方では「人民一丸となって肺炎と闘おう!」というムードも盛り上がっており、SNSでとりわけ活発なのが“愛国萌え”。武漢を応援し、国を守ろうという漫画やイラストが続々とアップされ、同人イベントのようになっている。

 そのモチーフで一番使われているのが、84歳のおじいさん。2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)に加え、今回も最前線に立つ鐘南山氏だ。呼吸器疾患の専門家で、科学技術分野の最高機関「中国工程院」の院士を務め、武漢封鎖を政府に進言し、耳目を集めている。

「『鐘さんとともに闘い抜こう!』みたいなイラストがホント多い。ただ日本のアニメや“萌え画”の影響が強くて、緊張感のない作品ばかりだが」(駐在員)

 こうしたムーブメントに、なんと習近平政権を支える中国共産党が同調。若手エリートを擁する党青年部「中国共産主義青年団」が、人気アプリ「快看漫画」とのコラボを発表し、「武漢と中国を応援する漫画を投稿せよ」と、全国の「宅(オタク)」たちに呼び掛けた。それを受けこの漫画アプリには、プロ並みの腕前からノートの落書きレベルまで、作品が次々と投稿されている。

「中でも人気を集めているのが、武漢のソウルフード『熱乾麺』(武漢風油そば)を擬人化した『熱乾麺くん』というキャラ。隔離されて寝込むカレを、中国全土のグルメを擬人化したキャラたちが励ますという、なかなか泣かせる作品だ」(前同)

 このたび、その続編イラストが発表され、「熱乾麺くん」の隣で「糯米飯ちゃん」も並んで隔離されてしまった。糯米飯(おこわ)は中国南東部の浙江省温州市の特産で、ここは今、湖北省に次いで感染が深刻と言われている都市。駐在員によると、中国のオタクたちは「そのうち四川火鍋や上海小籠包、北京ジャージャー麺(の擬人化キャラ)までも隔離されてしまうのでは」と心配しているそうだ。