和歌山毒物カレー事件はまだ終わっていない! 祭りのカレーにヒ素を混入して大量無差別殺人を図ったとして死刑判決が確定している林真須美死刑囚(58)。現在は再審請求中だが、31日に事件に関係する重要な民事裁判が行われる。使用されたヒ素の鑑定をめぐって争われるのだ。鑑定結果が死刑判決を支えているだけに、根本が崩れればすべて崩れる。となれば再審請求が通る可能性も高くなる。未解決事件を追う作家の山口敏太郎氏が、真須美死刑囚の長男(32)と対談、逆転の可能性を探った。

 山口敏太郎氏(以下、山口):対談のきっかけをお話しすると、僕の事務所には超能力者やサイキッカーがいて、それで和歌山毒物カレー事件(和歌山毒物カレー事件は1998年7月25日に発生。和歌山市園部で行われた夏祭りで振る舞われたカレー鍋にヒ素が混入され67人が中毒症状を起こし4人が死亡。同年、殺人および同未遂などの容疑で逮捕された真須美死刑囚は無実を主張。2009年に最高裁で死刑が確定。同年に、和歌山地裁に再審請求。17年に棄却。大阪高裁に即時抗告している)をリーディングしてユーチューブで取り上げたら「真犯人は別にいるんじゃないか」となったんです。それで息子さんと会うことになったんですね。

 長男:以前、かつての自宅近くに行ったとき、地元の方に「(犯人は)真須美ちゃんじゃないよ」って肩を叩かれたことがあって。山口さんのユーチューブを見てドキッとしたんです。

 山口:僕にも地元の方からいろんな情報が寄せられています。

 長男:事件当時、取材していた人たちは別の家を囲っていたんですが、マスコミが保険金詐欺(98年10月に真須美死刑囚は知人男性に対する殺人未遂と保険金詐欺の容疑で夫とともに逮捕。同死刑囚は保険金詐欺については認めている)のスクープを出したら、一斉に目が林家に向くようになりました。

 山口:使われた毒物はヒ素といいますが、このヒ素が問題になっていますね。

 長男:京都大学の河合潤教授が、林家にあったヒ素より毒物に使われたヒ素の方が濃度が濃いと言っています(裁判で唯一の物証は犯行で使われたとみられる現場付近で見つかった紙コップに付いていたヒ素だった。このヒ素と林家の台所で見つかったヒ素とカレーに混入されたヒ素を東京理科大の中井泉教授が鑑定。「組成が同一」として死刑判決の根幹となった。しかし、弁護団が河合教授に再鑑定を求めると、この3つが同一ではないとの評価だった)。

 山口:紙コップでカレーに混入されたヒ素と林家のヒ素が別物という鑑定をした方ですね。河合教授は和歌山地裁に鑑定結果を出している。混入された毒物が林家にあったヒ素という前提が崩れている。再審請求はどうなっていますか?

 長男:3年前に一度棄却されましたが、今またやっているところです。棄却の文書に「(ヒ素鑑定の)証拠能力は弱まっているが」と加わるなど若干ニュアンスが変わったなと感じています。31日にあるヒ素の鑑定をめぐる民事裁判(31日に大阪地裁で行われる民事裁判。真須美死刑囚が原告で中井教授ら2人に対して虚偽の鑑定が死刑判決につながったことで精神的苦痛を被ったとして6500万円の損害賠償を求めてい)がターニングポイントになりそうです。昨年11月に母と面会しましたが、31日の裁判をすごく大事に思っていました。「これに負けたら一生出られない」と言ってましたね。

 山口:ヒ素鑑定以外にも疑問点がありますか?

 長男:捜査段階でもおかしいことがありました。父が取り調べを受けたときに「証拠を挙げられない。真須美に毒を盛られたと一筆書いてくれ。書いたら、すしとコーヒーを飲ましてやる」と言われて、そこで父は母の冤罪を確信したそうです。

 山口:不可解ですね。

 長男:不可解なことはほかにもあります。僕が見てきた保険金詐欺の光景は、両親と居候さん2人とお医者さんでやっていた。判決文を見ると主犯が母で、みんなに毒物を飲ませたことになっている。“共犯者”の居候さん2人は被害者となっていたんです。その1人は事件後に警察の制服をクリーニングする会社に就職しているんです。

 山口:2000年に自宅が放火されましたね。

 長男:跡地は和歌山市が買い取って公園になっています。犯人は捕まりました。弁護団はすべての証拠が燃えてしまったと言ってました。あまり言うと陰謀論になるけど…。僕のスタンスは母がやったかやっていないかは分からないというもの。今の状況で執行となると納得いきません。

 =続く=