「男はつらいよ」ロケ地で見つけた寅さんの飲んだ“幻の酒”

2019年12月17日 11時00分

「恋愛塾」の撮影。駅前で渥美さん、樋口が共演。渥美さんの持つ日本酒のラベルで「千歳盛」であることがわかる(小田切さん提供)

 故渥美清さん(1996年死去)の代表作「男はつらいよ」シリーズの第1作公開から50年の今年、50作目の新作「男はつらいよ お帰り寅さん」(山田洋次監督)が27日に封切りされる。フーテンの寅は全国津々浦々を巡り、ロケ地も全国に広がった。当時の寅さんブームを感じるべく、秋田県で関係者を取材すると、寅さんの飲んだ“幻の酒”を見つけた――。

 テキヤ稼業の寅さんは生まれた東京・柴又を起点に全国を行脚した。地方での撮影ともなれば、国民的人気者の渥美さんの周りには取材陣もやじ馬も集まる。ロケ地に決まれば、おらが町のPRができる。当時から、各地で誘致合戦が繰り広げられていた。

 今回訪れたのは第35作の「寅次郎恋愛塾」(85年公開)のロケ地、秋田県鹿角(かづの)市。「マドンナ」の樋口可南子(61)と、司法試験合格を目指す秋田出身の青年(平田満=66)の恋路を応援し、長崎県五島列島の新上五島町、柴又、そしてフィナーレが鹿角となった。

 市は鹿角を全国に売り込むため、松竹に猛烈アピールを実施。当初は五島列島と信州を舞台にすることが決まっていたが、鹿角の魅力を詰め込んだビデオテープを送ったり、製作補助費約1400万円、3万枚の前売り券(1200円)買い取りなどの条件で「五島と鹿角」に脚本が変わったという。それだけ寅さん映画の誘致が全国自治体から「チャンス」と認識されていたことがわかる。

 渥美さん人気を証明するように陸中花輪駅前での撮影には2000人以上の市民が集まった。当時、市役所職員として誘致やロケに関わった阿部一弘現副市長(65)が振り返る。

 作中で渥美さんと樋口がスキー場のリフトに乗るシーンは現場で突如決定した。「水晶山スキー場のリフトは冬にしか動かせない。夏場は陸運局の許可がないとな。あのときは許可取ってないかも」と冗談を言う。

 新作では柴又帝釈天の参道にあった「くるまや」はカフェに変わった。鹿角も映画が作られたころと、現在で変わったものがある。「陸中花輪駅」の表記は95年に「鹿角花輪駅」に変わった。青年の実家である造り酒屋「松風」もロケ地だが、撮影前後に廃業。跡地には大手ゲーム店が建っていた。そんな中、残っていたものが、寅さんが飲んだ日本酒だ。寅さんが駅に降り立ったときに持っていた一升瓶が「千歳盛」という銘柄の酒だったことが取材で明らかとなった。

 駅前の清水商店の店長浅石洋子さん(70)が話す。「撮影スタッフが『酒の空き瓶ください!』と慌てて店に来ました。渡したのが千歳盛。鹿角を代表するお酒です」

 撮影エキストラを務めた呉服店の店主小田切康人さん(68)は「撮影前に渥美さんが満タンの酒の中身を駅のホームにドボドボと流しているのを見ました」という話と総合すると、次のことが推測できる。スタッフから水を入れた一升瓶を渡された渥美さんだが、酔っ払い寅さんとしてのリアルを追求した結果、「千歳盛を半分以上飲んでへべれけになった演出」として酒の中身を調整した――。

 だが、この酒も映画の中に置き去りにされるところだった。酒蔵がいくつもあった鹿角で最後に残っていたのが創業明治5年の老舗「千歳盛酒造(旧かづの銘酒)」。6代目当主田村清司さん(70)は「後継ぎがいないもので、最悪たたむことを考えていた」と話す。秋田市の飲食大手「ドリームリンク」が2017年に事業継承し、生き残ったという経緯がある“幻の酒”だ。

 千歳盛の仕込みは12月から始まり、新酒が出来上がるのは1月。新作を観覧した後には“寅さんの飲んだ酒”で気分に浸ってみるのもよさそうだ。

【関連記事】