ノーベル化学賞・吉野氏の隠れ専門「邪馬台国」部下も考古学の専門用語覚えないと

2019年10月10日 16時00分

 スウェーデン王立科学アカデミーは9日、ノーベル化学賞をリチウムイオン電池の開発に貢献した旭化成名誉フェローの吉野彰氏(71)ら3人に贈ると発表した。これで日本人のノーベル賞受賞者は27人目。リチウムイオン電池は、携帯電話やノートパソコンのバッテリーに使われるなど誰もがお世話になっている。将来は環境問題に寄与することも期待される。そんな大発明に関わった吉野氏とはどんな人物なのか。気になる旭化成からの特別ボーナスはどうなるのか。

「私自身、大変興奮しておりまして…今年のノーベル化学賞を受賞したことを報告します」。都内の旭化成本社で開かれた会見の冒頭、吉野氏があいさつすると、集まった100人以上の旭化成社員が沸いた。発表直後には社員が涙を流して喜ぶなど、吉野氏がいかに慕われているかを感じさせた。

 授賞理由になったリチウムイオン電池はスマートフォン、ハイブリッド車、電気自動車にも使われ、環境問題にも寄与すると期待される大発明だ。

 共同受賞者には米テキサス大オースティン校のジョン・グッドイナフ教授(97)と、ニューヨーク州立大のマイケル・スタンリー・ウィッティンガム特別教授(77)が名前を連ねた。

 吉野氏はどんな人なのか。会見では「科学者になりたいと思ったきっかけは、小学校3年か4年に英科学者マイケル・ファラデーの『ロウソクの科学』を読んで、子供心に面白いなと思ったことですね」と語った。

 大阪府吹田市出身で京都大学工学部へ進学。大学では考古学にも熱中し、その興味は今も続いており、遺跡を掘りに行くこともある。

 吉野氏の下で働いたことのある旭化成の社員は「働いているときも考古学の専門用語が頻繁に出てくるので、部下は覚えないといけない。古墳や邪馬台国が好きで、研究室では邪馬台国がどこにあるかという話をよくしてましたよ。どこだと断言はしていませんでしたが」と明かした。

 吉野氏は会見で「研究は専門だけでなく、関係ない分野に興味を持つことが大事です。歴史は流れ過去と現在の流れを読み解くと未来が見えてくる。研究開発に役立つ」とも話した。

 気さくな人柄だと話すのは、1992年から約15年ほど吉野氏の部下だった津端敏男さんだ。

「初めて会ったのが新潟に出張へ向かう新幹線の中でした。隣同士の席で緊張していたら、吉野さんが席を立ったので、怒らせてしまったのかと。そうしたら吉野さんがドリンクを2つ、何とはあえて言いませんが、買ってきて『飲もう』と。面白い人だと思いましたね」

 津端さんはあえてボカしたがビールだろう。吉野氏はお酒が好きだという。気を使わせない配慮で、部下の心をがっちりキャッチしたわけだ。

 ニコニコと丁寧に答える会見の姿は普段のままだという。質疑応答では記者から「どうして謙虚なのか」という質問が飛んだが「座右の銘は『実るほど頭を垂れる稲穂かな』。へりくだるわけじゃないが、頭は垂れます」と笑わせた。

 ノーベル賞受賞で会社からの特別ボーナスはどうなるのか。同社幹部は「そういうのは聞いたことないですね」と首をかしげる。前出の津端さんは「毎年、吉野さんはノーベル賞の候補者になっていましたが、吉野さんの口からお金の話題が出たことはないですね。僕らはお金で動いていないんですよ。吉野さんもそうだと思いますよ」と代弁した。

 これだけ社員に慕われていれば、社内で今後「吉野さんに何かあげよう」という話が浮上しても不思議ではないが…。ちなみに民間企業の受賞者では、2002年の化学賞に輝いた当時43歳の田中耕一氏には島津製作所から報奨金1000万円が贈られている。

 今後のリチウムイオン電池の展開について、吉野氏は「技術はさらに進みます。モバイルITから自動車、そして空や海へ。リチウムイオンの本当の姿は謎だらけ。ワクワクしています」と、これからも研究開発に取り組むと意気込んだ。

 部下らによると普段から「社会システムを変える」と言い、予言がよく当たるという。

 吉野氏は未来を「AIやロボットとドッキングして無人自動運転の電気自動車ができる。そして、それがシェアリング、共有されているのではないか」と予想している。