見た目もマナーも美しい「デコトラ」の世界

2019年10月01日 11時00分

大人も子供も魅了された

 トラック野郎文化は健在――。パーツや電飾などでトラックを派手に装飾した「デコトラ」が集まるイベントが先ごろ、開催された。改造費は1台につき、家が1軒建つというほどの“大人の趣味”にハマる人たちは、見た目は怖くても中身は優しい常識人。あおり運転にも余裕の対応をする。1970年代の映画で始まった日本独自の文化は継承され、海外からも注目を浴び、追っかけ少年は映像をインターネットに投稿している。最新デコトラの世界とは――。

 音楽フェス「ロッキンジャパン」の開催地で知られる「国営ひたち海浜公園」(茨城県ひたちなか市)近くの空き地でデコトライベントが開催されたのは先月22日。会場を探して記者がキョロキョロしていると、数台のド派手な色彩のトラックが同じ方向に走っていく。追いかけた先では、500台近いデコトラがひしめき、ねじり鉢巻きやつなぎ姿のイカつい男たちが集まっていた。

 このイベント「水戸友好団体」は、東日本大震災のチャリティーイベントとして2011年から毎年開かれている。運営に携わるクラブ「常陸乃國」滑川友徳さん(43)とクラブ「全国翼心会」の菊地和浩さん(45)に話を聞いた。「クラブ」とはデコトラ愛好者の集まりだ。

 同イベントは全国でも最大規模を誇り、昨年は全国から1000台が集結。そんな盛況が裏目に出て、大洗ICから会場まで通常10分の道が3時間の渋滞。やむを得ず、今回は会場を移動した。

 多くの人がデコトラにハマるきっかけとなったのは1970年代に公開された映画「トラック野郎」シリーズ。イベントでも、菅原文太演じる星桃次郎と映画で共演した“伝説のドライバー”が作中の秘話を語り、注目を集め、イベントの司会をタレントの坂本一生が務めた。

 建設業で生計を立てる滑川さんにとって、デコトラは完全に趣味だ。幼稚園のころにテレビで流れた「トラック野郎」を見て、18歳から2トン車を運転し、稼ぎをつぎ込んでだんだんと車を大きくしていった。「何百万? いや、何千万円の世界。家1軒が建ちますよ」と滑川さん。

 デコトラとは「子供がプラモデルで遊ぶように、車いじりが好きな大人が遊ぶためのオモチャ」と菊地さんは表現する。飾りをたくさん付ける人もいれば、1つのパーツに大金をかける人など個性が表れる。菊地さんも「自分でデザインしてステンレス板金もやってる」というこだわり派だ。

 ただ、全国的に台数は減っている。派手な見た目を嫌うクライアントもいるからだ。「光り物(電飾)にうるさい親会社や、荷物を預ける人から『こんなデコトラで来るな』と言われたりする」(菊地さん)

 だが、会ってみると優しい人ばかり。社会問題化している悪質なあおり運転にも「俺たちはあおり運転なんてしないよ。蛇行運転したら燃費が悪いでしょ。あおられたら『なんですか?』って聞きに行くけど(笑い)」(菊地さん)

 そんなトラック野郎の姿に憧れる「追っかけ」と呼ばれる地元の少年たちを会場で見つけた。畑野悠介さん(16)と平沼強輝さん(19)の2人はいとこ同士で、平沼さんの父親からイベントに連れて来られたことで好きになった。

 彼らは国道でデコトラを待ち構える活動を行っている。イベントやSNSで交流した運転手と、運行情報をやりとりし、撮影もこなす。「普段、国道51号線にいて、スマホ片手に動画を回しています。それをユーチューブやSNSにアップしています」(平沼さん)

 デコトラが通ると、追っかけ用の特別仕様自転車のホーン(デコトラと同じもの)を鳴らして合図する。相手も鳴らしてくれる。「すれ違うときに鳴らすのは『スラッパ(スライドラッパ)と呼ばれてます」(平沼さん)。他にも「リズムラッパ」などの派生した鳴らし方もあるという。

 畑野さんの目下の悩みは「趣味の合う子が学校にいない」ことだが、最近では外国人のデコトラ好きも増えている。いずれは免許を取って“デコ自転車”からデコトラ乗りになる予定だ。

「免許を取ったら追っかけは卒業する暗黙の了解があるんです。デコトラは日本の文化です」(畑野さん)という次世代にしっかり引き継がれそうだ。