「通算1434勝」羽生善治九段の超人オーラ

2019年06月05日 17時00分

 無冠になっても現役バリバリの第一人者だ! 将棋の羽生善治九段(48)が4日、東京の将棋会館で指された第60期王位戦挑戦者決定リーグ白組プレーオフで、永瀬拓矢叡王(26)を133手で破った。この勝利で羽生九段は通算1434勝となり、故大山康晴15世名人と並んでいた歴代最多勝記録を27年ぶりに更新した。棋士仲間は前人未到の大記録を祝福するとともに「今でもトップの看板を背負っている」と大絶賛。強さだけでは言い表せない羽生九段の偉大さを語った。

 新記録を打ち立てた羽生九段は「今年に入って記録に近づいていると気づいていたので、一つの目標にしてきた。大山先生とは棋戦の数や時代背景は違うので、比較するのは難しいと思いますが、数字の上で一つ上に行けたことは棋士としてありがたいこと」とホッとした様子で喜んだ。

 5月23日に行われた谷川浩司九段(57)との対局に勝利し、大山15世名人の記録に並んだ羽生九段だったが、同30日の木村一基九段(45)との対局に敗れ、足踏み。

 この日の対局相手となった永瀬叡王は、将棋に対するストイックな姿勢や発言から「軍曹」と呼ばれる期待の若手で、5月に叡王の初タイトルを獲得したばかり。加えて羽生九段はこれまで3勝7敗と相性も悪かった。

 そんな難敵に羽生九段は、上座を譲って対局に臨んだ。中盤、猛攻にさらされたが、これをしのいで反撃に転じると、丁寧な差し回しでリードを広げて勝利した。

 前人未到の記録達成には棋士たちからも祝福の言葉が相次いだ。

 本紙でもおなじみ、戦後最年長の41歳でプロ棋士となった今泉健司四段(45)は「僕が『おめでとうございます』というのも失礼かもしれませんが、ただただ偉業。永世7冠を達成された時も言いましたが、野球で比較するならイチロー選手くらいしかいない大偉業で、素晴らしい以外の言葉がない」と大絶賛。

 藤井聡太七段(16)も「心よりお祝い申し上げます。一局一局の積み重ねが1434勝という偉大な記録となり、これからもさらに重ねていかれることに深い感銘を覚えます」とコメントした。

 将棋界では現在、進歩した将棋ソフト(AI)を活用して研究する棋士が増え、若手の躍進が著しい。8大タイトルを見ても、豊島将之名人(29=王位、棋聖)が3つのタイトルを保持。斎藤慎太郎王座(26)、永瀬叡王と合わせ、20代の棋士が5つのタイトルを獲得している。

 そんな現状の中で、タイトル数99期を積み重ねていた羽生九段は昨年末、竜王のタイトルを失い、1991年以来27年ぶりに無冠になった。一般に早熟が有利とされる棋界とあって、一部では「衰えた?」と指摘する声も出た。だが、今泉四段はそんな声に対し「衰えているわけがありませんよ」と異を唱える。

「世間の年齢的には“中高年の星”とも言われる年齢ですが、羽生先生は今でもトップの看板を背負う現役バリバリの第一人者。現状、最強の棋士の一人である永瀬叡王に勝利して、記録達成するのも偉大さを物語ってます。おそらく1700くらいまでは勝たれるんじゃないかと思いますし、タイトルも100を超えるでしょう。誰もこの記録を超えることができないんじゃないでしょうか」

 そして何より、羽生九段には将棋の強さだけでは言い表せないものがあると指摘する。

「今日は紅組プレーオフの木村九段と菅井竜也七段戦、棋聖戦の豊島棋聖と渡辺明2冠(棋王、王将)戦も素晴らしい将棋が指されました。記念すべき記録達成の日に、それを祝うかのように素晴らしい将棋がいくつも行われたのは、羽生先生のオーラみたいなものもあるんじゃないかと思います」

 6日に行われる木村九段との挑戦者決定戦に勝てば、豊島王位とのタイトル戦が待っている。羽生九段は穏やかな口調でこう語った。

「最近は若手で強い人が多い状況で、タイトル戦に出るのも容易じゃない。王位戦はここまで進むことができたので、また、ひのき舞台に出られるよう頑張りたい」

 今後は、前人未到のタイトル数100期なるかが注目を集めている。まだまだ将棋界は羽生九段を中心に回っていると言えそうだ。