日本映画を代表する女優・若尾文子(86)を特集する映画祭「若尾文子映画祭」が東京(2月28日~4月2日、角川シネマ有楽町)を皮切りに順次、各地で開催される。若尾は「清純派のお嬢さん」から、男を破滅させる「ファム・ファタール(悪女)」の役柄まで演じる名女優として、国内外で今もなお、支持される。41作品が上映される同映画祭では代表作の一つ「刺青」(1966年公開)が4K復元版として世界初披露される。若尾が持つ“破滅のエロチシズム”の魅力を、本紙が独占入手した未公開ショットとともに大公開する。

 若尾は1952年、19歳でデビュー後「十代の性典」のシリーズもので大ブレーク。これまでに260本以上の映画に出演した。特に故増村保造監督と組み、数々の名作映画を残した。

「若尾さんは『増村さんがいなかったら、いまの私はいなかった』と語っています」(映画宣伝関係者)

 その代表作の一つが映画「刺青」。作家・谷崎潤一郎の原作を増村監督が映画化した。若尾が演じたのは質屋の娘・お艶。男と駆け落ちするも売り飛ばされ、悪女へと落ちる…。その魔性の肌に彫られた女郎蜘蛛の入れ墨が印象的だが、今回の映画祭では世界初披露となる4K復刻版が公開される。若尾の滑らかで柔らかそうな背中の美しさがありありとわかる。谷崎の変態的な美意識と若尾の情念が見事に相まって、妖艶さが際立つ。

 前出関係者は「現代の日本女優に例えるなら、深田恭子的な天真らんまんさと、真木よう子的な怖さ、広瀬すず的なはつらつさを併せ持つとでも言いましょうか。ほかにも、すべての要素を併せ持つファム・ファタールです」と魅力を語る。

 若尾作品は単なるエロチシズムにあふれた作品だけでない。まるで未来を見通していたような作品もある。

 先日、米ロサンゼルスで行われた映画の祭典「第92回アカデミー賞」で韓国映画「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)が作品賞をはじめ4冠を獲得し、世界的ニュースになったが、過去には“若尾版パラサイト”というべき作品も公開されていた。「しとやかな獣」(62年、川島雄三監督)だ。

 ジュノ監督の「パラサイト」は現代社会が抱える貧困問題、格差社会を描いている。一方、若尾の「しとやかな獣」も貧困から抜け出そうとする詐欺一家と強欲な女が登場し「パラサイト」でも格差を象徴する演出として使われていた階段のシーンも登場する。

「『パラサイト』を見た映画ファンの間でも『しとやかな獣』とのリンクが話題になっています。これは『しとやかな獣』が現代にも通用する作品ということの証明なのではないでしょうか」と前出関係者。

 韓国映画がアカデミー賞を獲得したことで、一部では日本映画の遅れを指摘する声も上がっているが、若尾の「しとやかな獣」は「すでに日本には匹敵する作品があったことに気づかされる作品」(前同)だという。

 近年では2007年の参院選に夫・黒川紀章氏(同年死去)が党首を務めた共生新党公認の比例代表候補として出馬(落選)し、話題となった。

 若尾を知らない世代もその色気をスクリーンからかぎ取ることができる映画祭になりそうだ。