僕たちにしかできない2人だった。宮沢氷魚(ひお、25)、藤原季節(きせつ、27)が出演する映画「his」が1月24日、全国公開される。若い女性を中心に大ヒットした「愛がなんだ」の今泉力哉監督が、男性同士の恋愛をどう描くのか。LGBTQを取り巻く社会の現実にも真正面から向き合った今作で、ゲイであることを知られないよう田舎に移住した井川迅を宮沢、子供を連れ8年ぶりに迅の前に現れた初恋の人・日比野渚を藤原が演じている。

 ――大変な役ですが、オファーを聞いたときは

 宮沢:光栄でした。なかなか演じるチャンスのない役。季節君と話していたんですけど、挑戦的な作品ですし、あの今泉力哉さんがLGBTQを題材にした作品を作るという意味を考えると、やりたい役者はいっぱいいるよね、と。

 藤原:僕はこういうマイノリティーといわれる人たちを描いた作品をよく見ていたので偏見はないと思っていたんです。でも「his」で全然知識がなかったんだということを気づかされた。社会的に虐げられた人たちを描いた映画に今まで勇気をもらってきたけど、勇気を与える側に回れるんだと思いましたね。

 ――男性同士の恋愛という部分にうそが見えたら成り立たない映画ですが、パートナーとしては

 宮沢:これ以上ない存在でした。季節君じゃなきゃ全く違う作品になっていたと思う。それはそれで成立したかもしれませんが、この「his」では、たぶん僕たちでなきゃできなかった。なんというか、すごくバランスが取れていたんです。

 藤原:性格は正反対なんですけどね(笑い)。共通しているのはこの作品に対する愛情や誠実さ。それ以外はほぼ逆だといっていい。それが10日間生活して見えてきたことですね。

 田舎部分のロケは岐阜・白川町で行われ、スタッフの計らいで2人きりでのコテージ生活だった。

 宮沢:逆なのにどうしてこんなに一緒にいられるんだろうと(笑い)。生活リズムもスタイルも違う、好きなものも価値観も多分違うと思うし。

 藤原:けっこう迅と渚に近いものがあるのかもしれない。役に関しては苦労ばかりだったけど、迅のそばにいるときはすごい居心地がよかった。

 宮沢:役に対しての悩みはありましたが、季節君といるしんどさじゃなかったです。

 ――役に対する苦労、悩みとは

 藤原:演じるプレッシャーではないんです。渚の感じていることを自分のものとして感じてしまった。いろいろな行動や言葉が(LGBTQの)人を傷つけていたんだと気づいて、あ、これヤバイと。でもそこまで行けたのも氷魚君のおかげでもある。この映画に対してものすごく真面目に向き合っていたので、僕も勇気を出して飛び込んでいけた。身も心も渚になってみようと。

 宮沢:100%と100%を出しあって200%ではなく100%になるというか、ともに作るという感覚を今回ほど感じたことはないです。

 ――2人は恋人ですが空ちゃん(外村紗玖良)もいる。藤原さんはお父さん役がはまってました。

 藤原:もともと僕、子供がすごく欲しくて今すぐにでも欲しいぐらい(笑い)。

 宮沢:僕も欲しいですね。

 ――空ちゃんとの演技は

 藤原:楽しかったです。ケンカもしましたし。僕が『うわー、もうおなか一杯で食べられないんだ』っていったら『まだ食べられるもん』って大泣きして(笑い)。

 宮沢:なにやってんだよ、って…。

 藤原:2日間口きいてもらえなかった(笑い)。大泣きしたところとか写真撮って、これがパパの気持ちか、もうどんな顔でも残しておきたいんです(笑い)。

 ――「おっさんずラブ」のヒットなどでLBGTQに対する見方も少しずつ変わっている。この映画が果たす役割は

 藤原:「おっさんずラブ」の世界観は普段カミングアウトできなくて苦しんでいる人たちにとって夢の世界を描いていると思うんです。一方、「his」は同性愛者が直面する壁や好きの意味を真正面から描いている。自分の凝り固まった常識や、こんな好きという感情もあるんだなということを知ることができる。

 宮沢:美しい部分だけじゃなく、苦しさや醜さも描いている。限りなくノンフィクションに近い、ドキュメンタリーに近いような気がしている。今泉さんの作品らしいといえるんですけど、限りなくリアルに近い。だからいい悪い含め、いろいろな意見が出ると思う。

 ――公開が待ち遠しい

 宮沢・藤原:あー。

 ――あれ?

 藤原:怖いといえば怖い(笑い)。

 宮沢:楽しみでもあるし怖くもある。みんなに早く見てもらいたいというのは大前提なんですけど。

 藤原:いい映画を見たあとはずっとその映画の話をしてしまう。そんな人同士の会話で、この映画が広がって欲しい。

 宮沢:「愛がなんだ」みたいにね。