【山下達郎「忘れないで/ラッキー・ガールに花束を」】

 NHKで2004年から05年にかけて、全39話が放送されたアニメ「アガサ・クリスティーの名探偵ポワロとマープル」は、何というか、ものすごく豪華な作品だった。

 タイトル通り、クリスティーのミステリー小説を原作としたアニメだが、主役の名探偵エルキュール・ポワロの声を担当したのは里見浩太朗、ミス・マープルは八千草薫。各回のゲスト声優にも、草笛光子、松方弘樹、林隆三、赤木春恵、松原智恵子などそうそうたる名優、大女優が起用されていたのである。

 そして主題歌。オープニングテーマの「ラッキー・ガールに花束を」、エンディングテーマの「忘れないで」、いずれもこのアニメのために山下達郎が書き下ろして歌った曲。さすがはNHK、最高の作品を作るために最高の人材を持ってくる。

 この両曲を収録したシングルが04年に発売されている。「ラッキー・ガールに花束を」は軽やかに弾むようなポップスで、一般的にイメージされる達郎サウンドの枠内に収まっている。しかし、「忘れないで」の方は、それまで山下達郎があまり発表してこなかったような、マイナー調の壮大なバラードだ(作詞は竹内まりや)。悲しげで湿り気も多めなのだが、そこは山下達郎、決して歌謡曲っぽくはならず、哀愁のあるヨーロピアンサウンドに仕上げている。

 単なるタイアップではなく、アニメの世界観を意識して書き下ろされたというだけあって、“アニソン”としても非常に作品とマッチしていた。世間が求める達郎サウンドとはちょっと異なるかもしれないが、こういうタイプの曲でもここまで完成度が高いのは見事と言うしかないです。