妊娠を発表した石原さとみさんのデビュー作「わたしのグランパ」は2003年公開の作品で、当時石原さんは15歳。この作品で、第27回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、華々しいデビューを飾った。

 主演は菅原文太さん(享年81)で、他に浅野忠信さん、平田満さん、宮崎美子さん、波乃久里子さんら、魅力的な俳優たちが脇を固めた。筒井康隆さんの同名小説が原作で、東陽一監督から提案された企画だった。筒井さんはホリプロ所属で、映画化権の交渉でホリプロに連絡したのが、全ての始まりだった。
 筒井さんから快諾いただいただけでなく、ホリプロが製作に参加することになった。そして、菅原さん演じるグランパの孫娘・珠子役を、ホリプロスカウトキャラバンで選ぶことになり、その年のグランプリに選ばれたのが、石原さんだった。

 スカウトキャラバンの審査員には筒井さん、東監督も加わったが、最終審査前から、石原さんに注目していた。彼女の演技力、役に対する理解力が群を抜いていたからだ。将来が楽しみな新人の誕生だった。

 菅原さんは映画では13年間の刑務所暮らしから戻ってきた祖父の役で、正義感の強いまっすぐな性格だが、人間的な深みのあるグランパという設定だった。この物語を成立させるには、菅原さん以外思い付かなかったが、当時、菅原さんは息子さんを事故で亡くされたばかりで、俳優を引退されるのではないかといわれていた。

 飛騨高山のご自宅まで、東監督と2人で会いに行き、映画への想いだけでなく、私たち自身の在り様を見ていただくしかないと思った。結果、菅原さんに出演してもらうことになったが、撮影現場で接する菅原さんは俳優としてだけでなく、人間として尊敬できる魅力的な人だった。

 余談だが、映画製作後、「菅原文太の、日本人の底力」(ニッポン放送)というラジオ番組の企画に関わらせてもらったり、シグロの映画を応援してもらったり、菅原文子夫人ともども一生の付き合いになった。菅原さんは2014年に亡くなられたが、本当に生きていてほしかった、人生の先輩の一人だ。

 石原さんに話を戻すが、出産を無事に終え、子育てに余裕ができて、彼女が芸能界に復帰する時を楽しみに待ちたい。そして、復帰の時はCMやテレビドラマではなく、できれば最初に映画女優としての石原さとみさんに会いたいなと、私は思っている。

 ☆やまがみ・てつじろう 1954年、熊本県生まれ。86年「シグロ」を設立、代表就任。以来80本以上の劇映画、ドキュメンタリー映画を製作・配給。「絵の中のぼくの村」(96年)でベルリン国際映画祭銀熊賞受賞をはじめ、国内外の映画賞を多数受賞。主な作品に石原さとみ映画デビュー作「わたしのグランパ」(2003年)、「老人と海」「ハッシュ!」「松ケ根乱射事件」「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」「沖縄 うりずんの雨」「だれかの木琴」「明日をへぐる」など。現在「親密な他人」の公開を控えている。