日本全国に増え続ける面白い名前のパン屋のプロデューサー・岸本拓也氏が、もし地方の町をプロデュースしたら? 新規開店のために日本を飛び回り、地道な調査を重ねる岸本氏。蓄えた知識を街おこしに生かしてもらおう、という連載です。

【北海道・釧路①】
 今回からお話ししたいのは北海道の釧路市と釧路町、近隣の白糠町(白糠郡)や鶴居村(阿寒郡)、厚岸町(厚岸郡)など、魅力があふれ過ぎている「道東」の街々についてです。結論を先に言ってしまえば、すでにある素材は素晴らしい! これに手を加え素材の魅力を磨けば、もっと多くの人を呼び込める! そう自信を持って申し上げます。

 まず基本的な情報。釧路市は釧路港や釧路駅から釧路湿原の一部と阿寒湖、飛び地になっている音別駅とその北側の広い範囲にわたります。釧路駅側と音別駅側の間にあるのが白糠町。市町合併から白糠町が離脱した結果こうなりました。

 釧路町は釧路市に隣接していますが、釧路市内にはなく、釧路郡釧路町です。国道44号線沿いに大型の店舗が増えていて、近年は釧路駅周辺より釧路町がにぎわっています。人口は、釧路市が17万4700人ほど。釧路町が1万9800人ほど(ともに平成27年のデータ)。市と町合わせて20万人近い人が暮らしています。

 私のパン店「あの人はナルシスト」は釧路町に出店しました。この店名、釧路の方々と話している中で思いつきました。タクシーに乗っても、居酒屋に行っても「夕日見た? きれいでしょ?」と、すごく自信満々、そしてうれしそうに言うんです。それから魚介。「魚、おいしいでしょ」とこれも自信満々に。それだけ街を愛し、自信を持っている皆さんの姿を見て、「ナルシスト」という店名を思いついたんです。

 実際、いろんな街に行きましたが、ここまで夕日が美しい街はありません。幣舞橋(ぬさまいばし)から見る夕日は、心が洗われるほどきれいでした。また釧路は霧も有名で、霧が出た時の情緒あふれる街の姿もたまらない。普段、東京や横浜で過ごす私からすれば、夕日や霧に包まれた街は、非現実的で幻想的。日本じゃないどこかに来たのかと思うほど美しいんです。

 そして魚介。北洋漁業の基地として大いに栄えただけあって、魚種も水揚げ量も実に豊富。釧路和商市場に行けば、その一端を垣間見られます。

 街おこしのひとつの鍵は、この魚介です。