【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】マレーシア北部ペラ州ゲリクの小学校に先月22日、野生のゾウが迷い込んだ。学校関係者が動画を撮り、SNSに投稿するや、一躍全国ニュースに。

 地元ネットメディア「ロジャク・デーリー」の報道によると、侵入したのは30~35歳くらいとみられるメスのアジアゾウ。背中の高さ3メートルはあろうかという巨体と長い鼻を揺らし、学校の廊下を我が物顔で歩いた。幸い生徒がいない時間帯で、撮影者は接近されパォ~ンと一瞬威嚇されたが、ケガなし。ゾウも無事ジャングルへ戻った。

「問題のゾウは、この学校に去年の11月設置されたばかりの電気柵を破壊して侵入したとみられる。事件を受け、スタッフが柵の修理と電圧を上げる作業のため、現地入りした」とは、州の野生生物・国立公園局担当官。

 現地は自然の宝庫だが、近年ジャングルに開発の手が入り、農園や宅地造成が進んでいる。希少生物の生息域に人間が入り込んだことで、エサに困ったゾウが街に迷い込むケースも増加。それで学校にも“ゾウ除け”の電気柵を設置しなくてはならなくなったのだ。

 この4日後にも、マレー北部では森林保護区そばの村にゾウ5頭が侵入。通報を受け、駆け付けた同局のハンターたちが鎮静剤を撃ち込んで眠らせ、どうにか捕獲した。近く森へ帰されるが、他にも人里にやって来て農作物を食い荒らす“ゾウ害”が続発していて、地元民も当局も手を焼いている。

 この地域には約300頭のアジアゾウがいるとされ、一部ではワシントン条約により取引が禁止されている象牙の密猟が行われているという。

 道路網の開発に伴い、野生動物の交通事故も多発。マレー北部クランタン州では先月31日、車にはねられたとみられる体長約2メートル、体重450キロのマレーバクの死骸が見つかった。

 所変わればなんとやら。日本の“害獣”と違い、マレーシアでトラブルを起こすのは希少動物だ。SNSなどには「動物の聖域に乗り込んできた人間がまず、生活を改めるべき」という意見も目立つ。

 今回のゾウ侵入は、新型コロナウイルス禍で閉鎖されていた学校が先月20日ようやく再開された矢先の出来事。ロジャク・デーリーは「8か月ぶりの登校を楽しみにしていた子供たちも多いだろう。ゾウもきっと友達に会いに来たに違いない」と記事を結び、読者をホッコリさせた。(室橋裕和)


 ☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く」(辰巳出版)。