【ほめ達・松本秀男 人生を変えることば選び】今年の酉(とり)の市は11月26日が「三の酉」。「三の酉」の声を聞くと、本格的な冬の到来を感じます。今年はコロナ対策として換気も必要なので、例年以上に寒さに耐える冬になりそうです。せめてことば選びで、気持ちや心はあたためたいですね。

 ほめ言葉はそもそも人の心をあたためるものですが、同じほめ言葉でもより心をあたためるのは、客観より主観。

 主観でほめると、こちらの思いが伝わります。思いにはエネルギーがあります。つまりは熱量が高い。だからあたたかく感じます。たとえば、「すてきなコートですね」だと、ちょっと客観的な感じがします。世間のコートと比べてすてき、みたいな。それを「とてもお似合いですね!」と“私はそう思う”との主観としての熱量を込めると、より相手の心をあたためます。

「佐藤さんて優秀ですね」も十分なほめ言葉ですが、「佐藤さんみたいになりたいです!」と言ったら、超主観。熱量たっぷりです。

 また、温度そのものを感じることばも、冷えた体や心には大切です。昭和歌謡の大ヒット、森進一さんの「襟裳岬」の「遠慮はいらないから あたたまってゆきなよ」などがそうです。「寄っていきなよ」でなく「あたたまってゆきなよ」。ぬくもりが伝わります。

 私の長男は中学の時に不登校になりました。1日中部屋にひとりいて、食事や風呂などの生活も乱れがち。

「ごはん食べな」「風呂入りな」では、それが義務のように伝わるのか、それとも冷えた言葉なのか、なかなか彼の行動につながりません。ある日それを「あたたかいうちに食べな」「湯船あたためといたよ」とひと言加えたところ、長男の部屋のドアが開きました。風呂場のドア越しに聞こえる、湯船から湯のあふれる音。その音に親の心もあたたまりました。

 一番大変なのは当の本人です。心も体の温度も下がっていたと思います。ことばにぬくもりを少しでも乗せてあげる。ちょっとしたことば選びの大切さをあらためて感じました。長男は今では自ら道を切り開き、元気に、大学生活やバイトを楽しんでいます。もともとのあたたかな笑顔で。

 相手があたたまると、その輻射熱(ふくしゃねつ)でこちらまで笑顔になります。あたたかなことば選びで、心も体も元気になってコロナ禍の冬を乗り越えましょう。

☆まつもと・ひでお 1961年東京都生まれ。国学院大学文学部卒業後、さだまさし氏の制作担当マネジャー、ガソリンスタンド経営を経て、45歳で外資の損害保険会社に入社。トップ営業マンとなり数々の実績を作る。現在は一般社団法人・日本ほめる達人協会専務理事を務め、企業セミナーなど多方面で活躍中。著書に「できる大人のことばの選び方」や「できる大人は『ひと言』加える」など。