【インタビュー後編】第31回東京国際映画祭コンペティション部門観客賞を受賞した映画「半世界」(15日全国公開)で、再スタート後初主演した元SMAPの稲垣吾郎(45)。後編では、阪本順治監督(60)とともに、高村紘という役柄や役者への思いを聞いた。

 ――稲垣さんが演じた高村紘には、妻と反抗期真っ盛りの息子がいる

 稲垣:父親役というのがあまり経験がなくて。今までエキセントリックな役だったり、特別な能力を持っている人や天才肌の人間を演じてきた。僕はそういうところがないんですけど、そういうイメージが多かった。今回は経験のないことだから、先入観なく作っていくことができた。

 ――自身の反抗期は

 稲垣:僕ね、反抗期がなかったんです。珍しいですよね。親は僕を縛りつけなかったし、家族だからこうしなければならない、ということもなかった。だから14歳ぐらいで芸能界に入っても、全く反対されなかったんです。どうぞどうぞ、いってらっしゃいって。多分うれしかったんだと思います(笑い)。社交性のない子供で一人で遊んでいたんです。学年で帰宅部だったの僕だけだったんですよ。集団行動が苦手で変な子供でした(笑い)。だから紘たちのことが分かるかというと全然分からない。でもロケ地(三重県・南伊勢)で人に囲まれて、生活していって、だんだんと役が僕に浸透してきた。少しずつ自分をそぎ落とす感じで、最後に残った自分の魂の部分が紘という人と共鳴したというか、こういうところが僕にもあるのかなと感じた。僕もこういう場所に生まれ育って、この職業(炭焼き職人)になってたら、紘みたいな人物になっていたのかもしれない。芸能界が僕をこうしただけだと思うので(笑い)。

 監督:そうか。芸能界から半世界か(笑い)。

 稲垣:「半世界」の意味はいろいろな捉え方がありますよね。僕もプライベートな世界と芸能界と半々で考えてきた。ずっとやっているんですけど(笑い)、芸能界に染まりたくない、芸能人と思っていない自分がいるんです。もしかしたら芸能人することが苦手なのかもしれない。俳優の仕事をしてて落ち着くのはそこで、ちゃんと演じることがいいんです。

 監督:うん。

 稲垣:本当は(俳優が)一番呼吸がしやすくて住みやすい世界なのかもしれない。もちろんグループとして、ずっと歌も踊りもバラエティーもさせてもらって、コンサートもできて。本当に今となっては普通にはできないことですし、輝かしい思い出です。それがあるから今の自分がある。でも違和感も感じていた。学校でも目立つタイプでも人前に立ちたいタイプでもない。騒がれたくないし、人に見られたくない。

 監督:全部逆になってるじゃない。

 稲垣:そうなんですよ。不思議ですね、そういう人がテレビに出続けるというのは。本当に貴重な体験をさせていただいたし、これからも歌もバラエティーもやっていくけど、本当の自分に近いのは俳優の仕事なのかもしれないです。

 ――監督は稲垣さんのこうした部分を見抜いていた

 監督:そういうわけではないけど、素の彼に会ったことがあったんです。長谷川も渋川もそう。僕は素で会った俳優さんはインプットするんです。頭の中のタレント名鑑に載せるんです。何も飾ってないときに出会っていると印象に残って、いつか何かの機会に(役柄に)ピッタリと合う。

 ――その出会いが生んだのが今作

 稲垣:半世界にスタートしたというか、新しい世界に踏み出したというか、自分にピッタリと合っている。年齢的にも環境的にも縁を感じます。運命的な出会いですね。この作品は。

 ――視野も広がった

 稲垣:映画が好きでたくさん見てきてやりたい役がいっぱいあった。メンバーの映画もそうですけど、だからいつもうらやましかった。映画解説などが多く、(今回受賞した)東京国際映画祭もカーペットの向こうから取材していたこともあった。うらやましいと正直本音で思っていたんです。演じることが一番好きだから。いつも映画の感想を話しながら、自分だったらこうしたいなとか、ハリウッド映画を見てもそう思っていたんですけど、今回夢がかなった。この年齢(45歳)でこういう(普通の人の)役をするのは本当に大切なことでした。これからこういう役ができないと40代、50代の需要やオファーがないかもしれない(笑い)。だからこの作品を本当に見てもらいたい。いろんなクリエーターの方にも見てもらいたい。監督の話ではないですけど、そうやってタレント名鑑にインプットしてもらいたいですね。