「復興五輪」は本当に被災地を向いているのだろうか!? 世界的デザイナーのコシノジュンコ氏(78)らが、福島の伝統工芸とコラボした商品を発表した。震災と原発事故で風評も含めて被害を受けた福島県をはじめとする被災3県は2020年の東京五輪に期待している一方、本音では復興五輪の理念に疑問を抱いている。

 コシノ氏は21日、東京・銀座の「GINZA SIX」で、福島県の内堀雅雄知事と「FUKUSHIMA PRIDE 2018 collection」商品発表会(販売は25日まで)に出席した。

 会津塗など福島県が誇る伝統工芸と、コシノ氏ら複数のデザイナーのコラボは昨年に続き、今回が2度目。「放っておくと民芸品。真面目に作ってるけど、都会の生活には合わなかった」(コシノ氏)。そんな伝統工芸にデザインの力を組み込み、革新的な商品を開発した。

 福島県観光交流局県産品振興戦略課の戸部有希子主事は「伝統工芸品は土産物としての需要があったが、福島は観光業で苦戦。原発事故による食の風評被害があったが、伝統工芸も同じく被害を受けて、売り上げは落ちた」と語る。

 後継者不足の問題も重なり、打撃を受けてきたが、「外部のクリエーターと伝統工芸のいい部分が合わさり、強い商品が生まれた。商品が売れることで、疲弊した事業者さんのモチベーションもアップした」(戸部主事)。

 福島県が期待するのは復興五輪としての東京五輪だ。内堀知事は「2020年は東京五輪・パラリンピック。震災から10年目の節目の年に向けてアピールを続ける。東京五輪という場で“メード・イン福島”が活用されたらいい」と力を込める。

 五輪は世界へのPRの場でもある。選手へのお土産や公式グッズになれば、海外に知られる大きなチャンスだ。

 だが、戸部主事は「東京五輪に伝統工芸を売り込んではいるんですが、どこも集中している。オフィシャルスポンサーの兼ね合いもあり、入り込む隙が全くない」と実状を明かす。「復興五輪」と掲げても、実際に「被災地に優しい五輪」とは言い難いのが現状だ。

 今月、岩手・宮城・福島3県の計42市町村長を対象に時事通信が行ったアンケートの結果が非情な現実を示している。首長からは「被災地と復興五輪との関係が明確ではない」などの声が上がり、復興五輪の理念が浸透していると考える首長は約26%にとどまった。

 東北6県と首都圏で河北新報などが実施したアンケートでも、東京五輪が復興に「役に立たないと思う」が52%となり、五輪の復興への役割に懐疑的な結果が出ている。

 国の中央から「復興五輪」を叫んでも、当の被災地がメリットを感じられなければ意味がない。そんな状況で、戸部主事は「五輪(組織委員会)の委員をされているコシノさんの力を借りて、福島の伝統工芸を五輪関連商品にしたい」と期待を寄せる。

 誘致のときだけ被災地を利用して、被災地に何も還元されない五輪では意味がない。コシノ氏は「原発はなかなか解決できないけど(伝統工芸の)技術は原発に侵されていない」として「福島が元通りになるのは無理だけど、元通りという後ろじゃなくて、前に広がりがあると割り切るべき」と、復興に向けた現実的で強いメッセージを打ち出した。