「カミハテ商店」は私がやるべき作品

2013年02月06日 09時30分

【高橋惠子 芸能生活42年回顧録「女優物語」(34)】

 

 昨年、全国公開された映画「カミハテ商店」(2012年11月10日公開)で、私は「花物語」(1989年)以来23年ぶりに主演を務めました。この作品は、私の夫で映画監督の高橋伴明が教授をしている京都造形芸術大学映画学科の実作プロジェクト「北白川派」の一環で、「カミハテ商店」はその第3弾となります。

 なぜ23年ぶりに主演映画なのか? 理由の一つは今回の作品でプロデューサーを務めた夫から「やってみない?」と誘われたからですが、それだけではありません。台本を読んでみて、「これは私がやるべきだ」と強く思ったことが最大の理由です。

 舞台は山陰地方のとある村。その外れにある断崖が自殺の名所になっていて、そこにはバスの終点「上終(カミハテと読みます)」から歩いていくしかない。バス停の隣には「カミハテ商店」があり、その店には老婆が一人。そこで自殺者は牛乳とコッペパンを買い、食べてから自殺する。老婆は自殺すると分かっていても止めず、断崖に残された自殺者の靴を取りに行く——。

 この老婆役が私です。生と死を真っすぐに見つめる老婆役は私にしか演じられない、私だからこそやれる。台本を一読して、心からこう思えました。35年以上前のことですが、一度ならず「死にたい。本気で死のう」と考えたことのある私だからこそ、やらなければならないのです。

 もちろん、「死」についてまったく考えたことのない人生が幸せだとは思います。ですが、一度も死について考えたことのない人間がいるのでしょうか? 程度の違いこそあれ、誰しもが一度は考えたことのある問題だと私は思っています。

 幸いにも関係者からの評価は上々で、6月には世界3大映画祭と並ぶ規模の「カルロビ・バリ国際映画祭」(チェコ)のメーンコンペティション部門に正式招待され、私も出席してきました。海外の映画祭に出席したのは、18歳のときの主演作「朝やけの詩」(73年)でベルリン国際映画祭に招待されて以来、41年ぶりのことです。

 現地では映画リポーターの方々に高評価していただき、コンペ部門の12作品中、平均点が1位に輝いたほど。受賞こそ逃しましたが、私にはこの高評価と観客の大拍手で十分でした。「カミハテ商店」のテーマが国際的に認められた証明だと思っています。

 本作では老婆役という初めての“老け役”を演じましたが、これはとても貴重な経験になっています。女優という仕事を生涯続けていくと決めたからには、極端にいえば20代の若い女性から老婆役まで演じられなければならない、と考えているからです。

 肉体的にも精神的にもどんな役柄にも対応できないといけない。そのためにも、今できることをしっかりと——。こんなふうに、これからの人生も女優という仕事を軸に充実した日々を生きていこうと決意しています。(完)