「第158回芥川賞・直木賞」の選考会が16日に都内で開かれ、芥川賞に石井遊佳さん(54)の「百年泥」と、若竹千佐子さん(63)の「おらおらでひとりいぐも」の2作品に決まった。人気ロックバンド「SEKAI NO OWARI」のSaoriこと、藤崎彩織(31)の処女作「ふたご」が候補となっていた直木賞は、門井慶喜さん(46)の「銀河鉄道の父」に決定。Saoriは受賞を逃したが、候補となり作家としての注目が集まったことから、2作目、3作目への期待が高まり、出版社間で争奪戦も始まっているという。

 Saoriの直木賞受賞はならなかった。昨年10月に発売された処女作「ふたご」(文芸春秋)は、発売から3日で重版が決まり、累計発行部数は10万部を突破。“セカオワ”ファンを中心に売れまくり、新人作家ながら昨年末に直木賞候補となっていた。

 芸能界では2015年にお笑いコンビ・ピースの又吉直樹(37)が「火花」で芥川賞を受賞して以来の快挙が期待されたが、次作以降への持ち越しとなった。

 直木賞の選考委員を務めた伊集院静氏(67)は、「ふたご」について「小説の形としての完成度が足りないんじゃないか。一部の選考委員からは、事実が書かれている、と」と指摘しながらも「才能も感性もある。今まで素晴らしい楽曲に出会ってきたように、素晴らしい小説に出会えば、もっといい作家になれると思う」と評価した。

「ふたご」はSaoriがモデルと見られる少女と“セカオワ”のボーカル・Fukaseがモデルと見られる少年との関係、そして2人が仲間とバンドを結成するまでを描いた青春小説。物語の内容と「SEKAI NO OWARI」との関連について、Saoriが文芸誌で「リンクしている部分はたくさんある」と明かしたように自叙伝的要素が強く、受賞を逃す一因になったともみられている。

 その直木賞を受賞した門井さんは「風が来た、飛ぶだけだ。そういう気持ちです」と独特の表現で喜びを語った。15年に「東京帝大叡古教授」、16年に「家康、江戸を建てる」で直木賞候補となっており、3度目の候補作でついに受賞した。

 すでに中堅作家だが、受賞を機に“おいしい”ことが待っている。

「世間が注目する芥川賞・直木賞は、愛読家以外の反響も大きい。受賞を機にその作家の古い作品も売れるので、処女作で受賞したほかの2人より、門井さんが受けるおカネ的な恩恵は大きい」(出版関係者)

 それにならえば、Saoriの処女作落選は今後に期待が持てる。

「直木賞候補となったことで作家として出版界も注目しているし、セカオワのファンだけでなく、売れる可能性がある。そういう意味で2作目、3作目を狙って他の出版社間で争奪戦も起きているとも聞く」とは別の出版関係者だ。

 芸能プロ関係者も「Saori本人は昨年末に第1子を出産しましたが『2作目は東京五輪までに書き上げたい』と作家活動に意欲を見せていますからね」と話しており、未来の受賞まで注目が集まりそうだ。

 一方、新人作家ながら処女作「おらおらでひとりいぐも」で、芥川賞を史上2番目の高齢となる63歳で受賞した若竹さんは「人生の終盤でこんな晴れがましいことが起こるなんて信じられない」と驚きの様子。夫の和美さんを亡くしたのをきっかけに55歳で本格的に小説を書き始めて8年、ついに訪れた偉業に「和美さん、私やったよ!」と喜びの声を上げた。

 若竹さんの小説は「老い」がテーマ。作中では独り暮らしをする74歳のおばあさんを描いているが、若竹さんは「この間、座骨神経痛になって、これは大変だと。まだまだ老いの大変さをわかっていなかった」と明かし、今後も自らの老いと向き合いながら、小説を書き続けていくという。

「百年泥」で芥川賞を受賞した新人作家の石井さんは、在住するインドから電話で会見に応じ「何年かかっても作家になりたいという気持ちは揺るがなかった。何回生まれ変わってでもなりたいし、ものを書くことは私の業。文字表現するために私は生まれてきたと思う」と、作家活動への並々ならぬ意欲を披露。10代のころから日記のように文章を書き続け、大願成就に「機が熟したということでしょうね。これまでの時間は無駄ではなかった」と受賞をかみ締めた。