このところタレントやディレクター、カメラマンなどが海外の意外な場所に行き、紹介するテレビ番組が増えている。しかし、世の中にはテレビやメディアが予想もしない場所を訪れる人がいるもの。よりによって「未承認国家」の「廃虚」を巡り、写真集を出した会社員女性がいた。その写真集「幽幻廃墟」(三才ブックス、発売中)の著者、星野藍さんに、未承認国家の魅力を聞いた。

 星野さんが廃虚に興味を持ったのは18歳のころ。「イラストを描く資料を探して『廃虚』で検索し、軍艦島(長崎県)にグッときたのがきっかけ」だという。その4年後には自力で軍艦島に上陸。「すさまじかった。生きながら死に、死にながら生きる場所がある。でも、ここもいつかはなくなる。はかなく、いとおしく思い、廃虚の魅力に取り付かれました」。以後は週末ごとに廃虚巡りへ。国内では飽き足らず、海外20か国以上の廃虚まで巡るようになった。

 そんな星野さんが「未承認国家」に目覚めたきっかけは、ちょっとした勘違いからだった。「アニ遺跡に行こうとアルメニア行きのチケットを取ったら、今はトルコ領でした。隣国だけど国境を封鎖していて、遠回りしないと入れない。それでアルメニアで何かないか探し『ナゴルノ=カラバフ共和国』という未承認国家を見つけたんです」

 同国はアゼルバイジャン領内に位置し、アルメニアが実効支配。ほとんどの国から国家として認められていない。星野さんは2016年1月にアルメニア側からバスで同国に入り、現地の外務省でビザを申請し、お目当ての廃虚へ向かったという。

「真冬に行ったので吹雪が大変でしたが、廃虚モスクで見たダイヤモンドダストが美しくて、魂を抜かれました。ネットを見てもほとんど情報がありませんが、実際に行くとこんな美しい景色があり、おいしい食べ物、人、建築、文化がある。情報が少ない国に行く楽しみを知ったんです」。以後、「沿ドニエステル共和国」など、10余りある未承認国家のうち4か国を訪問した。

 もちろん、危険はある。「未承認国家には日本の大使館はありません。何かあったらすべて自己責任。推奨はできません」。16年4月に軍事衝突があり、外務省は現在、「ナゴルノ=カラバフ共和国」について「危険レベル3。渡航中止勧告」としている。

 また個人レベルでも「旧ソ連系の男はすぐナンパしてきます。アルメニアでバスが一緒だった人に食事に誘われ、『たばこ吸う?』と地下室に連れて行かれました。そこで吸わされたもののせいで2日間眠れなかったんです。『キスしよう』と執拗に迫られ、拒否しまくって逃げました」。

 さらに「アブハジア(未承認国家)では、軍人にお茶に誘われ、軍人なら大丈夫かと車に乗ると、カフェではなく丘の上の廃虚まで行き、慰霊碑の前でコンドーム手にチンチンをポローンと出してきたんです。見たことないぐらい大きくて驚きました。走って逃げました(笑い)」。

 一方、吹雪でバスが止まり途方に暮れる星野さんを自宅に招いて、移動手段を手配してくれた女性もいたという。「今のところ運良く危険な目には遭っていません。これからも情報が少ない未承認国家を訪ね、知られざる魅力を見つけて、伝えていきたいです」。