【アツいアジアから旬ネタ直送「亜細亜スポーツ」】日本ではすっかり熱が冷めてしまったともいわれるスマホゲーム「ポケモンGO」だが、アジア諸国ではまだまだ高い人気を誇っている。とりわけマレーシアでは、首都クアラルンプールやジョホールバルなど、ポケストップ(アイテムなどを入手できる場所)やジム(仲間にしたポケモン同士を戦わせる場所)が多い大都市で、スマホを手に「ポケモンGO」に夢中になっている若者たちの姿を目にする。地元紙「バルカン・ポスト」が、レアもののポケモン13種の出現場所について記事を掲載するほどだ。

「驚いたのは西部の観光都市マラッカ」と語るのはシンガポール駐在のビジネスマン。休暇にマラッカを訪れたときの様子をこう語る。

「15世紀に東西貿易で栄えた歴史があり、世界遺産にも指定され、治安も良く日本人観光客も多い。トライショーというサイドカーつきの自転車タクシーが名物なのですが、これにポケモンのキャラクターであるピカチュウが大胆にあしらわれているのです」

 トライショーはシンガポールやマレーシアで庶民や観光客の足として人気の乗り物。かつては花や絵などで飾り立てていたが、現在ではポケモンなのだ。人気に乗じた格好の運転手たちは「次々に観光客から声がかかって忙しいよ。これに乗ってマラッカ各地のポケモンをハンティングするんだ」とうれしそうだ。

 マラッカでは、歴史的建造物が並び、にぎやかな屋台街でもあるジョンカー通りなどにポケストップが集中。ネットではポケモンの出現情報がオンラインの地図で共有され、アクセスが殺到した。集められた情報にはレアポケモンの出現ポイントもあり、マレーシア中から人が押し寄せた。彼らは世界遺産の街をトライショーに乗って回り、スマホと大容量バッテリーを持ってゲームに興じている。

 しかし、ポケモンデコレーションはどう見ても著作権に違反している。ポケモンだけでなく、キティちゃんやドラえもんなどさまざまなキャラクターも無許可で勝手にトライショーに取りつけているのだ。これには「国際的な観光地でいかがなものか」という声も上がっている。

 それだけではない。各トライショーは派手さを競っているが、どんどんエスカレート。夜になると電飾をともし、さらに搭載したステレオから大音響のロックなどを流して走り回る。まるで暴走族なのである。

 地元民からは「明らかに世界遺産の景観を汚している。騒々しいし、電飾がまぶしくて対向車にとっては危険だ」と問題視されている。

 また、相場を知らない外国人旅行者との料金トラブルも絶えない。

「1時間の約束が、30分しか走ってくれず、お願いした場所にも行ってくれなかった。その上、約束した料金より高い金額を請求された」と前出のシンガポール在住ビジネスマンが憤る。

 マージンの入る土産物店などに強制的に連れて行かれることも多い。いろいろと問題の多い乗り物なのである。

☆室橋裕和(むろはし・ひろかず)=1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め周辺国も飛び回る。3年前に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。