【小金井刺傷事件】冨田さん 心身ともに元気になるためにどんな治療が必要か?

2016年06月10日 10時00分

 約30か所をナイフで刺されて重体に陥り、意識が回復していたことが7日明らかになった都内の私立大3年生冨田真由さん(20)は、内臓のほか脳にも異常がないことが判明した。音楽活動をしていた冨田さんはライブハウスでストーカーに襲われ、生命の危機を乗り越えた。心配されるのは忌まわしい事件で心に負った傷の影響。心身ともに元気になるためには、どんな治療が必要なのか? 専門家に聞いた。

 冨田さんは5月21日午後5時すぎ、音楽ライブに出演するためにJR武蔵小金井駅から歩いて会場に向かう途中、殺害するため待ち伏せしていた岩埼友宏容疑者(27=殺人未遂と銃刀法違反の疑いで送検)にナイフで刺された。

 岩埼容疑者は冨田さんの熱狂的なファンで時計や書籍などをプレゼントする一方で、連絡先を聞こうと付きまとったり冨田さんのツイッターに執拗に攻撃を仕掛けるなどストーカー化。襲撃の動機について「プレゼントを送り返され、恥をかかされた」「結婚したかった」などと供述しており現在、刑事責任能力の有無を調べるため鑑定留置中だ。

 冨田さんは首の左側を刺され静脈を損傷したため大量出血。搬送先の病院の集中治療室で医師たちの懸命な治療を受け、今月3日にようやく意識が戻った。

 世田谷井上病院の井上毅一医師によると、約2週間ものあいだ意識不明の状態が続いた原因は、出血多量と恐怖心が考えられるという。

「首の静脈を切られると血が大量に吹き出てしまうが、凶器がナイフだと傷口がシャープなので、ノコギリなどで切りつけられた場合に比べると出血量がそれほど多くなかったため助かった可能性が高い。救命士による初動の止血や酸素吸入の処置で生存可能性は大きく変わる。これらがうまくいったのだろう」(井上医師)

 しっかり療養すれば、日常生活を送れるまでに回復できるという。

「内臓に異常がないとのことですから心配ない。ナイフの傷は縫合も簡単で外傷が治れば元通りの生活ができる。腕の神経が切れていると指が動かないが、手術で元通りにギターを弾くことも可能でしょう」(同)

 だが、体が回復しても気がかりなのは心に受けた深い傷だ。実際に付きまとわれ、警察にストーカー被害を相談していたとはいえ、突然ファンに命を狙われるとは夢にも思わなかっただろう。

 臨床心理士の矢幡洋氏によると、犯罪被害者に必ず心的外傷後ストレス障害(PTSD)が生じるわけではないが、ストレス障害に悩まされる可能性はあるという。

 たとえば、思い出そうとしていないのに事件当時の光景が脳裏によみがえったり、繰り返し事件の夢を見るといった症状だ。また、いま事件が起きているような感覚になり身を守ろうとする行動に出ることもあるという。

「現場を想起させるような場所で苦しくなったり、心理的にライブハウスに入れなくなることもあります。鬱っぽくなりイライラが続いたり、今まで興味のあった活動への意欲がなくなることも。音楽活動を再開した場合、過剰に警戒的になったりファンが近づくだけで恐怖心が募る可能性もあるかもしれません」(矢幡氏)

 こうした急性ストレス障害は意識が回復した直後から発症する場合があり、半年以上長引くとPTSDと診断される。犯罪被害者は過去の恐怖体験をどのように克服していけばよいのか。

「恐怖の記憶に対して少しずつ慣らしていく『暴露療法』が効果的です。たとえば“ライブハウスに行くのが怖い”という場合はまず、誰もいないライブハウスに入って出てくるといった簡単なことから段階を踏んで訓練して“できなくなっていること”から事件への連想を取り除くようにします」(矢幡氏)

 今後、冨田さんは警察の事情聴取や裁判、事件を伝える報道に触れる中で常に、いつか自由の身になった岩埼容疑者が再び接触を図ってくるのではないか?という恐怖とも闘わねばならない。それでも、何としてでも心の傷を癒やし恐怖に打ち勝って、再び舞台で笑顔を見せてほしいと誰もが願っている。