「第29回山本周五郎賞」が16日に発表され、人気作家・湊かなえ氏の「ユートピア」(集英社)が受賞。注目されていた押切もえ(36)の6本の短編小説集「永遠とは違う一日」(新潮社)は、戴冠ならなかった。

 選考委員は石田衣良氏(56)、角田光代氏(49)ら5人の作家。その一人である佐々木譲氏(66)が会見で、選考の経過を説明した。

 選考方法は、5人の選考委員による点数評価と議論。押切は僅差の次点だったという。

 昨年、「ピース」又吉直樹(35)が「火花」で芥川賞を獲得したのに続く“芸能人作家”の快挙はならなかったが、善戦だった。湊氏、押切のダブル受賞も検討されたそうで「規定として(受賞は)1作だけだった。選考委員としては2作品同時受賞でも良かった」と称賛された。

 人気作家の湊氏に肉薄できたほど力作に仕上がったウラには、取材対象者からの“カミナリ”があった。

 出版関係者によれば、押切は今回の短編集6本のうちテーマの一つであるLGBT(性的少数者)を猛勉強。性同一性障害に悩む人物を直接取材したが、その中で「ホントのボクの気持ちを分かっていない!」と指摘されたという。性同一性障害はデリケートな問題で核心に触れづらいが、押切は「遠慮してはいけない!」と丁寧に取材。LGBTの深層に迫り、よりリアルに書き上げることができたという。

 当の押切はこの日のブログで「最後まで賞の候補に残ることができ、とても嬉しかったです!」と感謝をつづった。

 世間が思っている以上に文壇の評価は高い。熱意が続けば、モデル作家が文学賞を受賞する日は、そう遠くないかもしれない。