「山」が役者を育てた——。小説家・夢枕獏氏(65)の傑作「神々の山嶺」を実写化した「エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)」。12日から全国公開されるこの映画は、世界でも類を見ないエベレストの標高5200メートル地点でロケを敢行した。岡田准一(35)、阿部寛(51)の両主役は、過酷な環境でも見事な演技を披露。平山秀幸監督(65)が撮影の裏側を語った。

 ——この小説を題材に選んだのは

 平山監督:この原作は20年前の小説なんだけど、最近よく目にする小説は私小説が多くて、なんとなく軟弱なんだよね。でもこれは直球、真っ向からストレートを投げられているように感じた。熱さや強さ、そういったものが芝居を通じて見えてくればいいと思った。それが原作に対する仁義みたいな。

 ——日本にもこれまで山岳を題材にした映画はあったが、エベレストの5200メートル級での撮影は…

 平山監督:この高さでカメラを構えて、ドラマを作るというのは世界的にもなかったんじゃないかな、と思いますね。

 ——そんな高所で撮影すると聞いた阿部さん、岡田さんのリアクションは

 平山監督:最初は「本当に行くの、エベレストに? 俺やれるのかな」という感じだったと聞いてます(笑い)。でもみんなヤジ馬根性というか、怖さよりも(エベレストという山の持つ)強いエネルギーにひかれたんですね。

 ——現地滞在期間は

 平山監督:準備、撮影期間含め3週間ほどいたかな。この間はさすがにみんな勝手なことはできない。否応なしに一緒に行かないといけない。それが良かったかな。

 ——良かったとは

 平山監督:歩きだすと、どんどん顔が変わってくる。東京の顔がなくなって、短い間で本当の山男になる。実際に歩いて、エベレストの空気に触れることでね。あの映画の中の彼らを作ったのは、僕ではなく、ヒマラヤの大自然だと思う。

 ——阿部さん、岡田さんの演技は

 平山監督:クライマーとしての2人の動きを指導し、OK出すのもダメ出しするのも本当の(同行している)山屋さん、一流のクライマーなんです。もちろん表情など精神面の部分の演技は僕が受け持ちますが、彼らには「山に関しては全部あちらに聞け」と。

 ——岡田さんはともかく、阿部さんは登山初心者で「伝説のクライマー」役でしたから大変だった

 平山監督:ええ。でも阿部さんが氷壁用のピッケル2本だけで登る、ダブルアックスの場面があるのですが、それは登山家の方が「完璧だ」と言ってました。

 ——阿部さんと岡田さんの関係は

 平山監督:2人の関係というのは塩っ辛いというか、ソルティー。そんな距離感をロケ地でも保ってましたね。例えば(カメラマン役の)岡田さんが阿部さんを追っかけるポジションのときは、岡田さんはストーカーみたいに撮影以外のときも阿部さんを撮ってました。

 ——ハードな内容だけに、わずかなうそくささも許されない

 平山監督:技術的な部分は山屋さんに任せていたけど、不安はありました。映画だから作り物なんだけど、編集して全部つなげたとき、本職の方から「これはにせ物だよね、こんなでたらめないよね」と言われたら、この映画は負け。ここが一番気になった点でした。

 ——その反応は…

 平山監督:山屋さんからは「良かったね」とか、そんなやさしい表現は返ってこないです(笑い)。その夜は延々、酒を飲みました。一緒に飲んでくれたってことは合格点をもらったのかな、と思ってる(笑い)。