ベッキー、SMAP、バス転落事故…。1月は企業や芸能界などでたくさんの謝罪会見が行われた。でも、もしあなたが当事者だったら…と想像したらゾッとしませんか? そこで「信頼学の教室」(講談社現代新書)の著者でリスク研究のスペシャリスト、同志社大学・中谷内一也教授に、不祥事が起こった時の謝罪方法と失墜した信頼を回復するためのコツを聞いた。

 ――このところ謝罪会見が続いています

 中谷内:そうですね。でも、一番驚いたのはベッキーさんの不倫騒動ですかね。

 ――LINEの内容が漏れました

 中谷内:そうですね。LINEの内容が流出して、謝罪会見をした後、さらに「文春ナイス」「センテンススプリング」なんてLINEが出た。展開としては前代未聞。本当に衝撃的でした。

 ――というのは

 中谷内:通常の感覚では1回やって、これは情報が漏れると分かったらもうやりませんよ。昨年、長年にわたる不正会計問題が発覚し、東芝が謝罪会見しましたね。この問題に当てはめると、謝罪会見した後「今年も決算ごまかしちゃいます」と公言したようなものです。内容が本当なら、常識的にはあり得ない。何かウラ事情があるのかと疑ってしまいます。

 ――スポンサーも離れてしまった

 中谷内:スポンサーの心理としては、1回目の時点では「様子見」していた会社もあった。不倫自体はままある話ですし、あれで切ったら「冷たい企業」と見なされ、逆にイメージダウンになるからです。でも、2回目のLINE流出は「彼女を外す良い機会」を提供しました。

 ――どうすれば良かったんですかね

 中谷内:不祥事があった時の謝罪は全てを明らかにする、ウミを出し切るというのが鉄則です。旭化成建材のデータ改ざん問題や長野のバス転落事故のように、後日ボロボロと新事実が出てくるのは最悪のパターン。ベッキーさんもすぐに会見したまではいいのですが「迷惑をかけました」で終わってしまったでしょう。

 ――質問も受け付けなかった

 中谷内:あの時、周囲は「不倫」について聞きたかったわけです。あそこでしっかり説明して、ケリをつけていればここまで問題は大きくならなかった。「優等生」というイメージやファンやスポンサーとの信頼関係は損なわれたでしょうが、2回目のLINE流出がなければ少なくとも回復の可能性は残していたはず。それがこういう結果になったのは「透明性と制裁のシステム」を理解しなかったからです。

 ――それはどういうことですか

 中谷内:トラブルが判明して信頼がぐらついた時に、その後の自分の振る舞いを社会の監視にさらして、もし再度の不祥事を起こしたら自分がひどい制裁を受ける状況を設定する。そして、そこに身を置くことなんです。

 ――なるほど。そういうスタンスでいれば、少なくとも2回目はなかったでしょうね。この問題から学ぶべきことは

 中谷内:現代はひとつの問題が発覚したらそれに関連する隠し事をしていても無駄。間違いなく後々表面化します。なにしろLINEまで流出してしまうんですから…。ところが、渦中にいる当事者の多くは「何とか隠せる」「逃げおおせる」と錯覚してしまう。ベッキーさんもそうだったのでしょう。でもこれがさらにトラブルを拡大させる原因。みなさんが当事者になったら、潔く全てをさらけ出す勇気と覚悟が必要です。相手が納得するまで説明する。相手が何を言ってほしいのか、どんな補償をしてほしいのかをしっかり分析する。それが信頼回復の第一歩です。

 ――SMAPの謝罪も話題になった

 中谷内:謝罪会見は当事者が自分たちの言葉で言っているのか、言わされているのか、第三者はそれを見極めます。そういう意味ではSMAPの謝罪の言葉には多くの人が違和感を覚えたのではないでしょうか。一般企業で例えると、商品に問題があったとして、開発責任者とかではなく、商品自体が並んでおわびしているようなものですよね。しかもどちらに向かって謝罪しているのか分からないという印象を受けましたね。

 ――トラブルといえば、琴奨菊の優勝で盛り上がった相撲も5年前は八百長問題や暴力事件などで揺れ動きましたよね

 中谷内:これは稀有(けう)なケースです。一般の企業ならとっくに倒産しています。あの問題のおかげで巡業や本場所も中止になった。問題に対する対応も後手後手で、幹部たちは自ら決断を下さずに文部科学省からの指示を待っていたでしょう。責任者の対応としては最悪でした。それでも倒産しなかったのは、日本相撲協会に取って代わる存在がないからです。

 ――唯一無二の存在ですからね

 中谷内:似たような例としては、地方の病院などがそうです。問題を起こしても潰せない、というケースがある。それは、潰したら医療施設がなくなってしまうから。ベッキーさんもキャラを変えて唯一無二の存在になればいいかもしれません。

 ――トラブルに備えて用意しておくべき方策は他にありますか

 中谷内:先に挙げたシステムの変形で「自動制裁システム」という考え方があります。例えば、業績の良くない状況で役員が賞与全てを自社株で受け取るというケースです。6年前、業績不振に陥った世界最大級の投資銀行「ゴールドマン・サックス」が行っています。株式は5年間売却できない、などの制限が付けられました。つまり業績を上げられなかった場合、役員は自動的に報酬面での制裁を受けることになるのです。これを自発的に行うことが重要。こうしたスタンスが社会的な信頼向上につながるのです。

☆なかやち・かずや=同志社大学心理学部教授。専門は社会心理学。人が自然災害や科学技術のリスクとどう向き合うのかというリスク認知研究、リスク管理組織に対する信頼の研究を行っている。主な著書に「リスクのモノサシ」などがある。