NHKさいたま放送局の記者によるタクシーチケット私的流用問題が、NHK内部を震撼させている。NHKは問題の記者を諭旨免職にしたうえ、全国の地方局など80部署を総点検すると発表。地方のNHK記者らは「俺もヤバいかも」と戦々恐々なのだ。経費節減が叫ばれる折、NHKでいまだにはびこる「タクシー天国」ともいえる驚くべき実態とは――。

 自民党は5日の総務会で、1月29日と2月2日に見送っていたNHKの2016年度予算案を了承した。もめたのは、タクシー券不正利用などの不祥事対応をめぐって、厳しい意見が相次いだことだった。

 NHKの発表によると、諭旨免職となったさいたま放送局の警察担当の記者(31)は、一昨年9月から昨年11月まで41回にわたり、約36万円分のタクシー券を私的に流用していた。バイク教習所やバッティングセンターへの足に使っていたというからあきれる。

 不正発覚当初、局内では「金額が数百万円じゃないから、謹慎と減俸くらいじゃないか」といわれていたが、子会社社員の着服など相次ぐ不祥事が重なったため、諭旨免職という厳しい処分となったようだ。

 さいたま放送局ではほかにも私的流用12万円の記者(23)が停職1か月、同6850円の記者(29)が出勤停止5日の処分となった。かつて、官僚が深夜帰宅する際、個人タクシーの運転手からビール券などの金券をキャッシュバックとして受け取る行為が「居酒屋タクシー」と呼ばれ、社会問題化したことがあったが、NHKも負けていない。地方紙の警察担当記者は「NHKのタクシー使用実態は異様だ」と暴露する。

 そもそもNHKの記者は、交通事故を防ぐポリシーから「マイカー使用禁止令」を敷いている。そのため「わずか1キロ未満の本局へ移動するのにも、タクシーを呼ぶ。昼飯に行くのもタクシー、警察官宅への夜回り取材もタクシー、そこから家に帰るのもタクシー。そんな生活だと、どうやっても私的流用は生じてしまう」。

 地方ではよくある、ほのぼのした“暇ネタ”の取材もタクシーで出動し「数百キロを走破する」というから、費用対効果も何のそのだ。事件取材では乗り付けた現場にタクシーを待たせたまま、一日中張り込みなんてのも日常風景。もちろんメーターはウン万円に跳ね上がる。

 これが海外取材になるとより大胆になるようだ。元NHK職員は「海外取材では地元警察に数十万円ぐらい袖の下を渡さないと、街中でカメラを回せないようなところがあります。そこは自腹で払っておいて、別にタクシー運転手と話をつけて、金額をたっぷり上乗せしてもらった領収書を何回ももらうことで損失補填したというのは、経験している人はまあまあいるでしょう。それで感覚がマヒして日本でもやってしまうなんてことがあるかもしれません」と指摘する。

 それでも最近になって、ようやくタクシー使用にもメスが入り始めてきたという。

「地方局にいる知り合いの若手NHK記者は『中央からえらくタクシーのことを詮索されている』とビビっていた。小雪が舞う繁華街を自転車で走る涙ぐましい姿を目撃したよ」と、地方紙記者は明かすが、一般の会社だったら当たり前のことなのだが…。

 自民党の総務会では「謙虚な反省が伝わってこない」「確固たる覚悟をもってやれるのか」との声に籾井会長は「身を賭して改革する」とお決まりのフレーズでやり過ごした。予算案が了承されてしまえば、しめたもの。不祥事の再発防止がなされたためしはない。