布施明 嵐・大野やレディー・ガガから刺激「リスペクトできる人」

2016年01月22日 18時13分

日本の音楽界について語った布施明

 昨年デビュー50周年を飾った歌手・布施明。68歳の今も素晴らしい歌声を響かせ、現在は昨年8月から続くロングツアー「うたかた」に全力投球している。1975年「シクラメンのかほり」でレコード大賞を受賞し、数々のヒット曲を放った布施は今、ツアーで何を伝えようとし、日本の音楽界をどう見ているのか。開催地のひとつである名古屋で語ってもらった。

 ——50周年というひと区切りを終えて、今年のツアーのポイントは

 布施:実はたいした気持ちの変化はないんだよね(笑い)。ただ今までの形態をさらに追求していこうと。外国曲に日本語の歌詞で新しい解釈ができるようにして、コンサート全体がひとつの物語としてつながっていく。越路吹雪さん、ザ・ピーナッツさんなど、昔のポップス系歌手の方は、みんなそうしていたんだ。

 ——踊りのないミュージカルみたいですね

 布施:すごく当たっているかもしれない。

 ——今回のタイトルは「うたかた」です

 布施:水面に出る泡のようにすぐに消える意味と、長唄の唄方をかけて「唄方のうたかた」と言っているんだけどね。これだけ録音技術が進むと、それがすべてだと思う人がいる。でも実はスタジオにいる瞬間の“声の技”でしかない。“声の技”というのは毎回違う。一期一会なんだ。名古屋(4月2日、愛知県芸術劇場)でやるライブもそう。後には残せない。ただお客さんに「あの時はこうだったな」と、心のどこかに留め置いていただければいい。

 ——“声の技”といえば、キーも変わっていないと聞きました

 布施:いや、もう一度ちゃんと発声をやろうと思って、有名な声楽の先生のところへ伺おうとしたら『うちに来なくていいです』と断られちゃった。行く前に(笑い)。でもね、この年になると、体から出る声、メロディーに乗っている歌詞が制御できなくなってしまう。できるようにしないと、取り残されてしまう。

 ——取り残される?

 布施:そう。ちょっと油断すると、メロディーに乗っている自分の言葉が時代についていけなくなるんだ。なんというか、一生懸命に音楽の殻を作るわけ。『ちょっと教えてよ』と言われても『絶対教えるもんか、もう誰も入ってこれないぞ、これが布施明流だ』という殻を。中はとても静かなの。でも静か過ぎるから、ほんの少し穴を開けて外を見てみると、もう誰もいない(笑い)。ずっと先にいってる。今度は作った殻を必死で壊してその人たちを追いかける。それにすごく精力を使う。作っては壊し…の連続だよ。だから今『次の一歩』と言ってるけど、実は今までの殻を壊しているのかもしれない。みんなすごいから。

 ——刺激を受けた人は

 布施:例えば嵐の大野(智)くんの芸術作品群はたいしたものだと思う。集中して作り出すことが芸能活動にプラスになっているのかもしれない。レディー・ガガはちゃらちゃらしてるな、と思ってたけど、トニー・ベネットとのデュエットアルバムを聞いたら、すごい。リスペクトできる人だと分かった。素晴らしい人はたくさんいる。歌にうまい、下手はないから。

 ——そうなんですか

 布施:うん。歌はいいか悪いか、好きか嫌いかなんだよ。あの人の歌っていいよねって思うと、そこに行ってみたい。ずっと走りっぱなしだよ。

 ——走る布施さんの目には、今の日本の音楽界はどう映りますか

 布施:今は何を作ったらいいのか、誰も分からない。この50年間でこんなことは初めてかもしれない。それほどみんな、どうしていいか分からない。

 ——心配ですね

 布施:ただ最近は少し変わってきた。デジタル全盛から、もっとアナログ的、人の血が通っている音楽がいいな、という若者が増えている。片手でできる音楽が、5人でやる音楽に勝ることはないんだよ。

 ——片手とは

 布施:シンセサイザーは5本の指で5つの音が出せる。それも厚い音を。でももともとは、生まれも育ちも血液型も違う5人のミュージシャンがそれぞれ楽器を弾いて、ひとつの音、ハーモニーを作り出していた。最近はこのもこっとした、古い音のほうが温かみがあっていい、という人も増えている。もちろんデジタルで作った音もいい。五分五分ぐらいになってきた。

 ——なるほど。最後になりますが、布施さんにとって音楽とはなんですか

 布施:…うちはね、音楽のない家庭だったの。大きな声で歌うと、おふくろにうるさいって怒られて。でも中学2年生の時、同級生がブラスバンド部に入って一緒に帰ろうということで僕も入った。一番小さな楽器のピッコロとフルートの担当で、練習のために家の近所の東京農工大学に行って、その馬術部の小さな土手のところに座ってフルートを吹いた。でも最初の日だから全然鳴らない。はあ〜鳴らないなあと思って横になって吹いたら、音が出た。このとき本当に背筋に電流が走った。その次の日、部活でブラバンの真ん中に座らせてもらったの。何も吹けないから。先生がダン、と鳴らすと音がほとばしって…。また背筋に光が走った。音楽ってすごいなあ、と。その感覚を追い続けている。それだけの話(笑い)。