心不全のため2日に92歳で死去したことが5日に明らかになった女優加藤治子さんは、2008年に第17回東京スポーツ映画大賞の助演女優賞を受賞していた。ビートたけし審査委員長(68)を感心させたのは入浴シーンだった。

 対象作は阪本順治監督の「魂萌え!」(07年公開)。ヒロインの風吹ジュン(63)が泊まるカプセルホテルで出会った老女を加藤さんが演じ、ともに風呂に入る場面があった。

 たけしは主演女優賞に風吹を選出。当時、2人の入浴シーンに「ドキドキした。ババア2人で風呂入ってさ、よくぞ撮った、よくぞ入った」とスタッフとキャストをたたえた。「あの人、うまかったな」と加藤さんの演技力にも改めて感心した。

 授賞式に出席した加藤さんは「たけしさんに作品を見ていただいてうれしい。いつも自分の仕事が力足らずで恥ずかしいと思っているので、受賞できて幸せです」と喜びを語った。

 加藤さんといえば代表作の「七人の孫」(TBS系)や「寺内貫太郎一家」(同)など1960年代以降のテレビドラマで演じた母親役で人気を呼んだが、前出の「魂萌え!」ではまったく違う女性像も見せた。

 松竹少女歌劇団に入団後の39年、東宝映画に移り、榎本健一らと共演した加藤さん。後に結婚、死別した劇作家の加藤道夫らが結成した新演劇研究会にも加わった。戦後は文学座で舞台「なよたけ」のヒロインなどで評価を得た後、劇団雲の結成に参加して「ヘンリー四世」などに出演した。

「寺内――」の脚本を書いた向田邦子氏、プロデューサーを務めた久世光彦氏とはこの番組以外にも多くの作品で一緒になった。向田氏は81年、訪問先の台湾で航空機墜落事故に遭い不慮の死を遂げた。久世氏も06年に虚血性心不全のため急逝。加藤さんとともに天国でドラマづくりが始まりそうだ。